351回 久しぶりの故郷、醜い思い出、あふれる憎悪 2
異変はすぐに村の者達に伝わっていく。
まだ寝入るような時間ではないので、不審に思ったものが家の外を見る。
すぐに取り囲む壁に気づいて大声をあげる。
それが周囲の者達に伝わっていく。
隣近所に駆けだしていく。
呼ばれた者達が周りを見て更に驚く。
次々と人が出てきて異変をその目でみていく。
そんな壁の中にユキヒコ達は転移する。
村の中央、広場の中に。
集まってきた者達の頭上に。
浮かび上がった彼らは、村人達を見下ろしていく。
村の者達もすぐに気づき、頭上をあおいでいく。
手にした明かりをかざしながら。
そんな中でユキヒコは頭上に光を灯す。
村の連中が手にした明かりだけではさすがに周囲を照らせない。
夜間の街灯くらいには周囲を照らしながら、視界を確保していく。
おかげで村の者達は、目の前にいるのが誰なのかを知る。
「おまえは……」
「ユキヒコ?」
「なんで」
「あいつ、村から出ていったんじゃ……」
一人一人が口にする声がざわめきになっていく。
それを無視してユキヒコは、村の中にある通信用魔術器具を集めていく。
念動力による物体転移で出現していくそれらは、次の瞬間即座に破壊された。
「な……!」
いきなりの事で驚く村の者達。
更に。
「う……わああああ!」
この村にいる教会の神父が念動力で持ち上げられ、ユキヒコの前で落とされる。
衝撃にうめく神父。
それを見下ろすユキヒコは、すぐに相手の能力を看破していく。
「…………ふーん」
能力はごくごく平凡。
もってる技術や知識もそれなり。
与えられてる奇跡もたいしたものではない。
怪我や軽い病気を治す程度のものだ。
イエルの神官といえども、末端ならこの程度の能力しか与えられてないのだろう。
それがありがたかった。
面倒な能力をもってない分、対処しやすい。
だが、それでもイエルの僕だ。
見逃すわけにはいかない。
手始めに手足の骨をねじ折り、動きを封じる。
それもまた念動力によって。
「────ぐぎゃあ!」
悲鳴を上げる神父の手足は、あらぬ方向に曲がっている。
神父はそれをすぐに奇跡を使って回復しようとする。
「神の奇跡よ!」
効果はすぐに発揮される。
しかし、彼の受けた怪我を完治させる事は無い。
「なぜだ?!」
「当たり前だろ」
ユキヒコが疑問に答える。
「簡単な怪我や病気をなおす程度の力で、骨の粉砕がなおるかよ」
ごくごく当然の事である。
神父もその事を失念していたわけではない。
もしかしたら元に戻るかもしれないという期待があっただけだ。
それでも、願いがかなわなかった事に落胆してしまう。
痛みに顔をゆがませながら。
「とりあえず、そこで見てろ」
苦痛にあえぐ神父に言い放つ。
「こいつらを潰すところを」
その言葉は痛みにもだえる神父にはとどかない。
もたらされる苦痛は、他者への気遣いよりも自分を優先させた。
教義を伝える協会関係者といえども、いざとなれば人としての心情が前に出てくる。
そんな人間らしいところを見て、ユキヒコは村の連中に向き直る。
「さあ、みんな。
ツケを払え」
まず、意識をとばして村の中を探知していく。
隠れてる者、この場に出てきてない者がいるかを確かめる。
すると、何軒かに残ってる者達がいるのが見えた。
時間が時間なので、老人や子供が眠りについていた。
また、安全の為に残ってる家族もいた。
それらを念力で掴んで広間までもってくる。
目に見えない手に掴まれたそれらは、扉を破って空を飛び、広場の上で解放された。
高さ2メートル程度であるが、いきなり放り出されたそれらは、地面に激突して苦痛にあえいだ。
「これで全部だな」
およそ200人ほどの村民全てが無理矢理引きずり出されてきた。
ユキヒコがいた頃より増えてるが、それはユカを聖女として出した見返りなのだろう。
教会からのてこ入れによって様々な便宜がはかられ、それなりに余裕が生まれている。
それによって村の拡張や拡大がなされている。
この村に恩恵は確かにあったようだ。
ユキヒコ以外には。
「それじゃ、餌になってもらおうか」




