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350回 久しぶりの故郷、醜い思い出、あふれる憎悪

 のどかな村だった。

 攻め込まれてる地方でありながらも、まだ敵の姿のない地域である。

 その為か、戦火が迫りながらもそれほど切迫感はなかった。

 不穏や不安は浮かんできているが、それでも急いで避難しようという者はなかった。

 一応、注意勧告はされている。

 最悪の場合、避難する必要が出てくると。

 それに備えて、すぐに移動が出来るように荷物をまとめておけとは。

 それを聞いて、多少の準備は進めている。

 だが、本当に自分たちの住んでる地域まで敵が来るのかどうか、と疑ってもいる。

 そう考えるだけの余裕があり、だからこそ危機感も薄い。

 全くないわけではないが、今日明日で何かがおこるとは考えていない。

 そんな村だった。

「落ち着いたところだな」

 ソウスケが素直な感想を出した。



 村から少し離れた所に、ユキヒコ達は出現した。

 まだ日中なので外に出ている者達も多い。

 その為、まだ村に直接なにかをするという事はない。

 見つからない所からそれとなく観察していた。

 どこにでもある、ごく普通の農村。

 日常的な生活の全てがある。

 ごく普通に明日を憂えて、ごく普通に今日を過ごしている。

 多少落ち込む事があっても、それでも明日も明後日も続いていくと思っている。

 そんな風景がそこかしこで生まれていた。



 眺めてる者達は、それを見てなんとなく日常というものを思い出していた。

 目の前にあるものこそが、本来あるべきものなのだと。

 そんな中で自分たちも過ごしていたのだと。

 戦乱の中で戦争を繰り広げる事で忘れていたが。

 しかし、戻るべき、帰るべき何かというものは、間違いなくそんなありふれた何かであった。

 それとなく望郷の念を抱いてしまう。



 ただ、目の前にあるそれは、そのままにしておくわけにはいかない。

 彼らがやってきたのは、それらを崩壊させるためである。

 ユキヒコにとっては特に。

 それは決して許してはならないものだった。

 男達が田畑で働き、女達が家でまかないをして、子供達が村の中にある広場で遊んでる。

 そんな普通を謳歌し、享受している。

 その為に踏みにじられたものがあるのだから。



「こっち側の事はよくわからんが、こういうのを見てるとな」

「俺たちのところと何も変わらんのだな」

「まあ、後方なんてどこでも大した差は無いんでしょうが」

「こういうのを踏み潰しているんだよな」

「今更だな」

 なんとなしにそんな事を口にしていく。

「俺たちだって下手してたらこういうのを潰されてたんだし」

「上手く逆転してくれてありがたい。

 ありがたいんだけどな」

「自分がやる側になると、なんかためらうな」

「仏心を出してるわけにもいかんよ」

「それもそうなんだが。

 しかしなあ……」

「やる事はやるつもりだ。

 でも、やっぱり萎えるな、気持ちが」

 やむない事であろう。

 魔族と呼ばれても彼らとて人の心は持ち合わせている。

 人を蹂躙して楽しむというような感性は持ち合わせてない。

 それも今更ではある。

「戦争だ、そういう事にしておこう」

「そうだな」

「難儀な」

「嫌だねえ」

 自分を納得させる便利な言葉。

 それを口にして抵抗感を消していく。



 戦争だから。

 戦ってるから。

 やらねば自分たちがやられるから。

 それらが彼らに理由を思い出させていく。

 たんなる言い訳ではない。

 実際に、下手に手心を加えれば自分たちが蹂躙される。

 そんな事実の積み重ねがある。

 それを繰り返すわけにはいかなかった。

 相手が敵であるならば、一切の手加減も容赦もしてはいけない。

 そうでなければ、次の瞬間に倒れるのは自分である。

 そして、より多くの同胞である。

 そんな事にならないように、敵はすべからく滅さねばならなかった。



 そんな事を考えながら、日が落ちるのを待つ。

 青空が夕焼けに染まり、暗がりが届くのを眺めていく。

 田畑から人が戻り、家屋の中に入っていく。

 ユキヒコも能力を使って周辺を調べ、人が残ってないのを確認する。

 集落の中に、いるべき人間が全員揃ってる事も。

「やるぞ」

 声をかけ、実行を示す。

 同行者達は短く返事をしていった。



 ユキヒコの意識が周囲をとらえていく。

 物体だけでなく、気という生命や存在が放つものの動きや流れも。

 それらに意識が触れていく。

 物が、形が動いていく。

 空気が、草木が、地面が姿を変えていく。

 村の外周が盛り上がっていく。

 もともとあった土塁よりも更に高く。

 壁のように外と中を区切っていく。

 それは、外からの侵入を阻むようであった。

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