346回 どちらが有利なのかというよりは、どちらの方が負担が少ないのかという事になっていく 4
とにかく数が多いのが有利に働いていた。
敵を地域ごと包囲する事ができる。
それで町や村を取り囲んで押し入る事ができる。
敵の駐留部隊も同じだ。
外に出ることも、外からの連絡を受け入れる事も出来ないような包囲をする事ができる。
そうして分断した敵を一つずつ潰していく事ができた。
その際には相手を大きく上回る数で押し寄せ、敵を確実に潰していく。
おかげで新兵が多いながらもそれほど損害も出さずに勝利を得る事ができていた。
そして制圧した地域から二つの流れが生まれていく。
一つは体を損壊した男と老人達。
それらが一路、まだ無事な地域へと流れていく。
もう一つは、一定以下の年齢の女達。
それらは拘束されて異種族連合の後方へ、邪神官の領地へと送り込まれていく。
既に定番となった事だが、それも後方の制圧地域で発生していた。
そして、少しでも糧食の足しにしようと食料などが回収されていく。
大軍を動員してるので、どうしても食料などの物資が必要になる。
それを現地で少しでも確保して消費量に対応しようとしていた。
これについてはユキヒコが天候操作で豊作にしていた事が大きな助けになっている。
もともと例年より収穫が多かった事から、かなりの備蓄がそこかしこにあった。
持ち出す事も処分する事も出来ないまま残ったそれらは、攻め込む異種族連合の腹を十分に満たすだけの量があった。
折角の豊作と喜んでいたイエル側の者達は、それを奪われる事にも憤慨しながら処分されていく。
それがユキヒコが用意したものである事など知りもしないで。
「まあ、とりあえず順調でしょう」
この段階でユキヒコはヨウセンと面会をしていた。
今後の動きを決める為に。
「敵はおされてるので、時間をかければ壊滅する。
無理して攻め込む必要もない」
「確かに」
彼我の兵力差は大きく、異種族連合の制圧地域も拡大している。
それは時間が経つごとに大きな問題となっていく。
あちこちにあった生産地を失ったイエル側は、時間が経つごとに衰弱していく。
異種族連合とは対照的に。
「あと何ヶ月かして収穫期になれば、それもはっきりするでしょう」
「まったくだ」
戦争が始まってもう半年が経過している。
制圧した地域全てで行われてるわけではないが、農民などの入植されてる場所もある。
そういった地域では農作物の栽培が既に始まっている。
もちろん、ユキヒコによる天候操作で今年も豊作が期待できる。
「長期戦に持ち込む事で、こちらはまた有利になる」
「そうなってもらいたい。
だが、敵は黙っているか?」
「さすがにそれは無いでしょう」
「あいつらも領地を取り返そうと必死になる。
おそらくそれなりの兵力を集めて攻撃を仕掛けてくるだろう」
「それは確かな話なのか?」
「可能性としてあり得るというだけだ。
ただ、ソウスケが調べてくれた範囲からだけでも、そういう動きが感じられる」
それはヨウセンにも伝えられている。
それらを受け取った分析担当の部署や参謀会議などは同様の可能性を報告してきている。
ただ、その時期についてははっきりと示す事はできないでいる。
敵の動きから、早ければ三ヶ月以内にも。
遅ければ一年近くの先になるだろうと行っている。
今のところはそれくらいの精度でしか割り出せてない。
さすがにそこを断定するには情報が足りなかった。
それでも敵の方針や動きの方向性が分かってるだけでもありがたい。
「まあ、すぐに動くというわけでもないから、もう少し猶予はあると思っていて良いかと」
「それだけはありがたいな」
早くても動き出すのは三ヶ月先。
それより前に動き出す可能性は低い。
仮に動いたとしても、前線で展開してる部隊が敵を抑えるだろう。
そう簡単に突破される事は無い。
「なので、それまでに出来るだけの準備をしておきましょう」
「何をすればいい?」
「食料の確保と侵攻計画の再調整。
現地にいる友軍の領主達との話し合い。
新兵の配置とか」
「まあ、それはな────」
やらねばならない事だった。
特に友軍の意向は確認しておかねばならない。
彼らも長期の出兵から解放されたいと思ってるだろう。
可能な限り兵隊を帰還させ、前線部隊と交代させてはいる。
それでも、軍勢が前線に駐留して戦争状態にあるのと、領地に戻って安息をとってるのでは大きな違いがある。
前線に展開していれば、現地にいる兵士も、後方に居る一般人も様々な不安を抱える。
それを解決するには、どうにかして帰還する必要がある。
だが、この先侵攻するとなれば、そういった帰還は後回しにしてもらわねばならない。
敵からの襲撃の可能性も高まる。
あと三ヶ月。
その間に帰還して再び戦線に復帰するのはさすがに難しい。
なんとか留まってもらわねばならない。
戦力維持を考えるなら。




