343回 どちらが有利なのかというよりは、どちらの方が負担が少ないのかという事になっていく
戦争は悲惨な様相を呈していく。
最前線における軍勢同士の激突。
後方の地域における、侵入してきた敵軍によるゲリラ戦。
そして、内部を動き回るソウスケ達による内部工作。
この三つが同時進行していく事で、地方そのものがどんどん弱体化していく。
内部工作によって様々な情報が抜き取られ、施設の破壊などもされていく。
そして、これらに手引きによってゲリラ戦をしかける者達が導かれ、効果的な戦果をあげていく。
後方がそんな調子だから、最前線を支える事も出来なくなる。
軍勢同士の衝突はほぼ五分五分であるが、イエル側の後方支援はほぼ壊滅状態である。
そうなれば、時間と共にイエル側の軍勢は潰えていく。
敵の攻勢によってではない。
内部の崩壊によって。
食料も武器も消耗品も無い状態で戦争が続けられるわけがない。
攻め込む異種族連合も相当にボロボロだが、まだ後方からの補給は途絶えてない。
その差がはっきりと出始めていく。
後方陣地の一角が崩れる。
そこからゴブリンが入り込む。
同じ光景があちこちで次々に発生していく。
それはやがて陣地全体にひろがり、崩壊に至っていく。
損害を出しつつもどうにか踏ん張っていた防衛側は撤退をはじめていく。
仲間の死体を踏み越えながらも攻め込んでいた者達は、そんな敵の背中を追撃する。
戦線は一気に崩壊していく。
それは侵攻開始から三ヶ月が経過した頃の事だった。
こんな状況なので、イエル側は勇者を投入してくる。
崩壊する前から派遣され、前線を支えていたのだが、ついにそれもかなわなくなる。
せめて味方の退却を援護するべく殿をつとめていく。
その圧倒的な力は攻め込む敵を次々に壊滅させていった。
しかし、いかに勇者と聖女といえども何万という敵を殲滅する事は出来ない。
勇者と聖女、そしてそれらと共に踏みとどまった数百の兵士達。
それらは異種族連合の兵士8500程を道連れにして倒れていった。
これによりイエル側は3万の軍勢を生還させる事に成功する。
しかしそれは、2万以上の犠牲を出したという証でもある。
それだけの犠牲を出しての撤退だ。
壊滅よりはマシであっても、決して喜べるものではない。
攻め込んだ異種族連合の損害も大きい。
7万だった軍勢は4万まで減った。
当初の人数の半分以下にまで減っている。
勝利はしたが、これでは素直に喜べるものではない。
攻城戦になるので、損害はやむをえないものではある。
しかし、追撃をするにしても、現有兵力では心許ないものがあった。
部隊の再編成もせねばならないので、やむなく彼らは一旦足を止める事になる。
死亡者と負傷者をはっきりさせ、部隊の解散と再編成を行っていく。
そうして戦える者を集めて再び侵攻を開始する。
後方の司令部からはそういった命令が届いている。
この機会に敵地を少しでも制圧するために。
もともとその地域は異種族連合側の領地であった。
それをようやく取り戻したのだ。
この機会を失うわけにはいかない。
領地を更に確保せねばならない。
撤退した敵を更においかけ、敵勢力を壊滅させねばならなかった。
敵が再侵攻してくる可能性を出来るだけ減らすために。
数日の休息と再編成を終えた侵攻軍は動き出す。
疲労が完全に抜けたわけではなかったが、それを補うくらいに士気は高い。
イエル達に奪われた領地を奪回するというのは、彼らにとっても悲願である。
それを為してる自分たちは紛れもなく英雄…………そんな気持ちになっていた。
イエル側から逃亡してきた者達は違うが、それらにとっても自分たちを追い回してた連中を壊滅させる機会だ。
身の安全の為にも攻め込んでいく事はやぶさかではなかった。




