342回 食い違いによって生まれる問題はどこででも発生し、ほぼ確実に最悪の結果をもたらす 3
上層部にも問題があったから、文句にもそれなりの正当性がある。
敵のゲリラ活動、遊撃行動は既に前線にも伝わっていた。
内部に浸透して様々な工作をしていると。
それらは避難民から各地に伝わっている。
だからこそ対応や対策を求める声が上がっていた。
それにも関わらずのこの結果である。
上層部の能力に疑問を抱くのもやむなき事であった。
そして前線における脱走が始まっていく。
こんな上層部のいう事を聞いてられるかと。
命を賭ける者達からすれば、信用できない者のいう事など聞いてられない。
下手すれば、無駄に命を失う事になる。
そうなるくらいなら、持ち場から逃げ出した方がよっぽどマシである。
その後は逃亡者としての生活を余儀なくされる。
イエル側の社会に身の置き所は無くなるだろう。
だが、それでも無駄に死ぬよりはいい。
いつか野垂れ死ぬにしても、それまでは生きていられる。
少なくとも誰かの命令で殺される事は無い。
その方がよっぽど大事である。
それを阻止する者は構わず切り伏せる。
捕まってしまえば悲惨な目にあう。
戦えば死ぬかもしれない。
だが、やらねば悲惨な結果になるなら、死ぬ覚悟で立ち向かう方がいい。
脱走を決意した者達にとっては、その方がよっぽどマシな生き方に思えていた。
そうして発生する騒動は、もう反乱と言うしか無いようなものになっていった。
そんな彼らをソウスケ達は拾っていく。
脱走や逃亡、反乱を起こした者達を回収していく。
逃げ出そうとしてる者達を見つけては回収し、比較的安全な所までつれていく。
そして、その後の生活の世話などをしていく。
もちろん、無条件に行ってるわけではない。
それなりの働きもしてもらう。
行商人の手伝いや、内部工作の手伝いなど。
彼らが知りうる情報を洗いざらい吐き出してもらいもする。
そうして少しでも異種族連合側の活動を有利に動かしていく。
時にイエル側での破壊工作などにも従事してもらう。
もともとの味方に既に愛想をつかしていた者達は、驚くほど協力的になっていく。
また、イエル側の人間である彼らがいてくれれば、表だった行動がとりやすくなる。
異種族連合側の人間と違い、イエル側の習慣をおぼえなおさなくて良い。
それは大きな利点だった。
そういった者達が活動しやすいように、家族などを保護する事もある。
脱走に逃亡、場合によっては反乱を起こした者達である。
家族にも追及が及ぶのは当たり前だ。
脱走などをしたら家族に累が及ぶと示す事で、騒乱を抑制する為でもある。
かくまった者達の為にも、そういった家族を回収する事もしていった。
ただし、全部を助けるというわけではない。
さすがに手が足りない。
全ての家族を救出する事は不可能であった。
その為、どうしても手が届く範囲でやるしかなくなる。
助けられる者はごく一部となる。
脱走者の家族の多くは、投獄されるか処刑されて骸をさらすことになっていった。
その影響は両極端である。
家族を巻き込めないと、脱走などを諦めるもの。
そんな事をする者達の下ではやっていけないと、離脱をあらたに決意するもの。
この二つに反応は二分された。
ソウスケにかくまわれた者達は、ほぼ一つの反応を示していく。
そういった処分を下すイエル側に完全に愛想を尽かし、ソウスケ達への協力をかたく決意していく。
家族を救われた者は感謝を。
家族を殺された者はイエル側への怒りを胸に。
そんな彼らの間にも不穏な空気は発生する。
家族を殺された者は、救われた者達への嫉妬を抱いてしまう。
自分の家族は殺されたのにどうしてと。
それが理不尽なものであるとは分かっていても、どうしても気持ちはおさまらない。
それでも理解ある者の説得や、ソウスケが手を回す事で最悪の事態は回避していく。
何よりも、
「この原因はイエルにある。
怒りを向けるなら、それはイエルにだろ」
というソウスケの言葉に大部分が納得していく。
納得できなくてもその言葉を受け入れるしかない。
それはまごう事なき事実である。
「むしろ、救われた者達を祝ってやれ。
彼らはお前らと違ってその幸運に巡り会えたのだから」
それもその通りである。
結局は運の善し悪しなのだから。
それを嘆いてもしょうがない。
そんな彼らも気づいてない事がある。
そもそもとして、異種族連合が攻め込んでこなければこんな事にはなってないのだという事に。
しかしそれも、長く続く戦乱の中での出来事である。
そうであるならば、このような事はどこかで起こりうる。
それを一つ一つ取り上げても仕方が無い。
そこまで考えが至った者達も、この状況はどうしようもないと割り切っていった。
もうこれはどうにもならない大きな流れの中での出来事なのだと。
なまじそこまで考えが至ってしまうせいで、誰にも責任を問えるものではないと分かってしまう。
だからこそ、誰かにあたる事など決して出来なかった。
そこまで恥知らずになれる者はそう多くは無かった。
このような内部崩壊を起こして、イエル側の軍勢は勝手に数を減らしていく。
その様子を見ていた異種族連合側は、呆れながらも次の攻勢に出ていく。
最前線では、元遊撃隊長が率いる軍勢が、ついに総攻撃に出ていく。
後方ではグゴガ・ルが先頭に立って敵を追い立てていく。
そんな中でイエル側は、増援を最前線に送り込んで敵との合戦に臨んでいく。
数を減らした両者が合流してそれなりの数に回復する。
そんなイエル側の軍勢は、攻め込んできた元遊撃隊長の軍勢と激突していく。




