334回 全てはこの日この瞬間のため、そして勝利のため、何より敵を蹂躙するため 5
その中で重視されたのが、食料の確保である。
その為にユキヒコによってこの地方に豊作がもたらされていた。
戦争によって異種族連合の補給が滞らないように。
可能な限り現地調達出来るように。
それを見越して、収穫がほぼ終わる時期を狙って戦争を仕掛けている。
それによって生じる不利をあえて受け入れて。
収穫が終われば、農民の体があく。
そうなればそれらを徴募して軍勢の頭数を増やす事が出来るようになる。
そうなった場合、攻略が難しくなってしまう。
なので、出来る事ならば農繁期を狙って仕掛けるのが上策となる。
何も兵力が増えたところを狙う必要は無い。
だが、それでも食料確保のために、あえて収穫後を狙って攻撃を仕掛けた。
何せ膨大な兵力である。
拡大したゴブリン兵を養うほどの余裕はほとんどない。
ユキヒコが天候操作してなんとかごまかしてるが、それでもギリギリだったりする。
その為、これから攻め込む敵地から強奪する事で、足りない分を補おうとしていた。
収穫の全てを確保出来るとは思っていない。
しかし、少しでも手に入れる事が出来れば負担は減る。
その為にも、迅速に敵地に攻め入る必要があった。
何より、敵に食料を回収されるのを防がねばならなかった。
それと同時に避けたかったのが、敵が焦土戦を仕掛けてくる事だった。
施設や物資を使われないように集落や田畑を焼かれては元も子もない。
井戸に糞尿を投げ込まれて使われなくされたらどうしようもない。
そうならないように素速く敵地に入り込み、可能な限り制圧していかねばならなかった。
ありがたい事にそれは上手くいっている。
これに対してイエル側の軍勢は上手く動く事が出来なかった。
まず、異種族連合の動きが速くて対応しきれなかった事。
通信が各地で分断されてるので状況把握が上手く出来なかった事。
魔術による通信も、それを受け持ってる教会などがほとんど潰されてしまったので機能しなくなったこと。
更に生き残った教会設備も、異種族連合が使って誤情報を流した事。
仮に動こうとしても、浸透した異種族連合の軍勢がその妨害に出てきた事。
何よりも、最も兵力を集めている最前線陣地。
そこに異種族連合が攻撃を仕掛けていたので、そこから上手く撤退出来なかった事。
こういった理由がいくつも重なり、イエル側は国境地帯の蹂躙を許してしまう形になった。
また、特に迅速な動きを見せたグゴガ・ルの軍勢が、イエル側の軍勢を次々に潰していった。
彼は各地から伝わってくる情報をもとに、最も効果的と思われる所を転戦。
各地の敵勢を次々に潰していった。
また、6000の軍勢のうち、3000~4000を常時偵察に派遣。
それで見つけた敵に打撃を加えていった。
その際に、可能な限り小さな敵を潰していくよう心がけてもいた。
もとよりゴブリンが大半なので、数の優位を保たねばならないというのもある。
そんな兵で確実な戦果をあげていく為にも、少数の敵の殲滅は必要不可欠だった。
何より、各個撃破に徹したいというのもあった。
まとまった軍勢に攻撃を仕掛けると、グゴガ・ル達の損害も馬鹿にならない。
それは避けて、可能な限り多くの敵を倒せるよう心がけていた。
そんなグゴガ・ルの働きにより、撤退中、あるいは避難民の護衛に駆けつけた敵が次々に倒されていく。
一回の戦闘でグゴガ・ルが相手にするのは、200~300。
どんなに多くても500を越えるような敵は相手にしなかった。
しかし、そんな戦闘を繰り返す事で、馬鹿にならない損害を敵に与えていく。
最終的にイエル側は1万程の兵力をグゴガ・ルに削られる事になる。
これに対してグゴガ・ル側は、総勢6000を5890に減らすに留まった。
被害がないわけではないが、戦果に比べれば小さな損失と言って良いだろう。
そんなグゴガ・ル達にとって最大の戦闘は、国境陣地への攻撃になった。
そこに陣取る敵を背後から襲う事になったグゴガ・ルは、他の部隊と共にこれを粉砕。
残存していた敵軍1万3000を壊滅させた。




