330回 全てはこの日この瞬間のため、そして勝利のため、何より敵を蹂躙するため
緩衝地帯から元遊撃隊長に率いられた軍勢が進む。
総勢、9万7000。
数だけは大規模な勢力である。
しかし、その内情は決して良いものではない。
その大半はゴブリンである。
戦力として計上するなら、実際の人数の半分として見込まねばならないだろう。
それでも、相当なものであるのは確かだが。
しかし、もっとも戦力として期待出来そうな人間族などはその一割程度。
中核を担うには少ないようにも思える。
だが、それでも彼らは敵地へと向かう。
そういう命令を受けた以上、逆らうわけにはいかない。
下手に反発しようものならば即座に制裁をくらう。
それも命を失うような。
そういう容赦の無い事をしてくるので、命令に逆らうような者はいない。
このまま進めば、敵との戦闘になる。
そうなれば死ぬかもしれない。
だが、それでも反発するよりはマシだった。
指示に逆らえば、確実に死ぬ。
そこから免れる事は絶対に無い。
実施するユキヒコはどこに隠れていようとも必ず見つけ出してくる。
あとは悲惨な処分をされるだけだ。
しかし、敵と戦うならば生き残る可能性もある。
死亡率は100パーセントではない。
だからこそ彼らは生き残る可能性に賭けるべく、敵に向かっていく。
そしてほぼ同時刻。
そんな軍勢と並行するように山地の街道を通っていく者達がいる。
山地につくられた、拡張と整備を続けた道をひたすらに歩いて行く。
その数、10万。
ユキヒコや邪神官達が培ってきた軍勢だ。
当然ながら、こちらが本隊である。
県都陥落により手に入れた多数の女達。
聖女として日々励むそれらによってもたらされた、数多くの子供達。
その中でも妊娠期間が短く、成長速度の速いゴブリンは、数の上での主力になっていた。
もちろん、ただのゴブリンではない。
指示に従わないような者を省いた、まともな性格の連中だけを集めた兵団である。
規律もゴブリンにしては行き届いている。
能力の方も、一般的なゴブリンを上回る。
そんな連中が一路敵地を目指して進んでいく。
この兵力を揃えるために、三年という月日を必要とした。
ゴブリンの妊娠期間はおおむね二ヶ月から三ヶ月。
成人までにかかる時間が、およそ三年。
その三年間が欲しかった。
それだけあれば、県都攻略の頃に大量入手した聖女を使って新たなゴブリンを生み出す事が出来る。
そして、成長したゴブリンを戦力として投入する事が出来る。
その時間をどうにか確保して、ユキヒコ達は何万というゴブリン兵を手に入れた。
これだけの数がいれば、一人一人の戦力が低くても問題は無い。
本当にどうしようもないのは緩衝地帯に放逐したが、それでも10万という兵力を手に入れた。
これだけあれば、目の前の敵を攻めるのに十分である。
その第一波が敵地に到着し、案内人と合流する。




