329回 勝利に勝利を積み重ねるためにやれる事はなんでもやる、それが人道にもとるものであろうと知った事ではない 8
そんな指揮官と兵隊の熟達具合を調べるべく、何ヶ月かに一回ほどユキヒコから要請が届く。
「それじゃ、敵に突っ込んできて」
無謀で無茶苦茶なこの言い分に、逆らえるものなどいなかった。
言われた通りに元遊撃隊長は軍勢を率いて敵に攻め込む。
ただ、全軍を用いる事は無かった。
毎回2000から3000ほどを率いて敵陣地に突入させられる。
その都度それなりの損害も出ていたが、全滅するまで戦うわけではない。
「もういいよ。
撤退してくれ」
頭の中に直接響いてくるユキヒコからの指示で逃げ出していく。
おかげで、それなりの数が生き残る事が出来た。
そして、それが指揮官と兵隊達にとっての経験となっていく。
つまりは、命がけの演習である。
仲間同士で行う模擬戦闘ではない。
実際に敵に向かっていく、命がけの戦闘によるものだ。
それらが彼らの能力を否応なく向上させていく。
向上するために努力せざるえなくなる。
死にたくなければ必死にならねばならない。
そういう状況に追い込まねば決して真面目に動かない連中である。
そうやって少しは真剣さを持たさなくてはならない。
こういう荒療治で指揮官も兵隊も少しずつマシになっていった。
決して改善されたわけでも、まともになったわけでもない。
彼らの態度や言動、本心が変わったわけではない。
ただ、少しは効率的に動くようにはなった。
生き残るために誰もが最適化をし始めている。
それが少しだけ結果になってあらわれている。
命がけともなれば、それなりに考えて努力もするようになるのだろう。
そうやって何度も戦闘をさせ、経験を積ませていった。
烏合の衆もいくらかまともに動けるようになっていく。
引き換えに何人かの死亡者も出したが、補充はすぐに行われた。
今や異種族連合だけでなく、イエル側からも犯罪者や逃亡者を集めてるのだ。
多少の損害はすぐに補填される。
訓練などはなされてない、頭数だけの事ではあるが。
それでも減少したままでないので、戦力の大幅な低下は免れた。
そんな事を何回も繰り返してる間に時間が過ぎていく。
ユキヒコが提案したとある作戦の期日が近づいてくる。
それに合わせて異種族連合の軍勢が動き出していく。
様々な方面において、軍勢が最前線に向かっていく。
イエル側もそれに対応するべく動き出す。
三年。
ユキヒコ達が県都を陥落させてから経過した月日である。
それだけの時間を経て、作戦が発動していく。
この三年の間、ユキヒコ達は兵力の確保にいそしんだ。
その為に、敵が攻め込んでこないよう様々な工作をしていた。
犯罪者や追放者、逃亡者達を使って敵の前線にけしかけること。
敵地において騒動や犯罪を発生させ、そちらに注意を向けること。
そうして相手に攻め込む余裕を持たせないようにしてきた。
また、一カ所に敵が集中しないように、各方面に軍勢を向かわせていった。
これにより敵は各戦線にはりつく事になる。
そうした準備を施した上で、ユキヒコ達は行動を開始していった。




