328回 勝利に勝利を積み重ねるためにやれる事はなんでもやる、それが人道にもとるものであろうと知った事ではない 7
それが前回の失態のせいだというのは、彼にも分かっている。
分かっているが、それでも納得してるわけではない。
その責任は自分では無く他の何かにあると考えていた。
それは思うように動かなかった兵隊であり、周囲の状況や環境であり、立ちはだかった敵であったり。
己以外の全てに責任があると彼は考えていた。
それも間違ってはいない。
結果が出せなかった責任の全てが誰か一人のものであるというのも間違ってるだろう。
しかし、その中から自分を外しているのは大きな勘違いである。
そんな考えだからこそ、彼は今回この部隊を扱う事になった。
多少なりとも反省があり、それが表に出ていればこうはならなかっただろう。
彼はそれでも態度を変える事無く、自分を問題の所在地にする事はなかった。
やむなく彼は、この部隊の指揮官に任命される事になる。
ようするに、厄介払いだ。
一応は軍勢を扱うにたる階級や役職も用意された。
肩書きだけならば大出世であろう。
しかし、そんなもので糊塗出来るほど内容が伴ってるわけではなかった。
「なに、安心しろ」
不満を抱える元遊撃隊長にユキヒコは声をかける。
「こいつらにはしっかり言い含めてあるから。
お前の言うことを聞かなかったらどうなるかをな」
その言葉通り、ユキヒコは事前に様々な見せしめを行っている。
逃げだそうとした者はむごい死に方をして他の者達の前にさらされた。
指示を聞かなかった者も酷い最後を迎える事になった。
その上で、
『これからお前らをまとめる奴が来るから。
そいつの言うことを聞くように。
嫌なら仕方ないが、その時はあいつらの後を追うことになるからな』
そう言われた者達は黙っていう事を聞くしか無かった。
おかげで、下手に逆らわない従順な人間が大量に集まっている。
もちろん人間族だけではない。
ゴブリンも獣人も鬼人もイビルエルフも。
様々な種族が揃っている。
それらはやってきた指揮官をみつめている。
絶望や憤りや、様々な鬱憤と悲哀をたたえた目で。
それらを受ける元遊撃隊隊長は心の中でため息を吐いた。
こうして緩衝地帯にて新たな部隊が結成されていった。
それらは軍勢の態をなしてないお粗末なものではあった。
だが、数だけはそれなりにいる。
それらを少しはまともに動けるようにするべく、彼らの統率者になった元遊撃隊長は動き出した。
とにかく軍勢としての形をととのえなければならない。
指示に従って動くように。
戦闘力そのものについては度外視するしかない。
どれだけ強くても、言うことを聞かない者は兵士として使えないのだから。
逆にいえば、どれだけ弱くても指示を聞くならそれだけでありがたかった。
大量の人間がそれなりに動く為には、どうしても指示とそれに従う者が必要なのだ。
でなければただ集まってるだけの群れでしかない。
訓練がはじまっていった。
犯罪者や追放者、逃亡者の群れを少しはまともにするべく。
幸い、それはそこまで難しくはなかった。
事前にユキヒコが施した脅しがきいていた。
こういう連中には、誠意など通じない。
脅迫と暴力だけが指示に従わせる手段だ。
最初の段階でそれを示したユキヒコのおかげで、訓練は意外と上手く進んでいった。
ただ、どれほど素直に従っても、能力や技術の成長がそれに追いつくというわけでもない。
何度繰り返しても失敗する者はいる。
どうしても動作がおぼえられない者もいる。
そういう連中についてはある程度諦めるしかなかった。
それでも、そういう連中も含めて、全体としてそれなりの形にはなりつつあった。
そして訓練が必要なのは兵隊だけではない。
指揮官もそれなりの研鑽が必要である。
その為、指揮官も様々な教育を施される事になる。
指揮統率に戦術、全体の統括について必要な様々な事を。
特に前回とは比べものにならない程大きな部隊を率いるのだ。
求められる素養は大きな者になる。
それを身につけねばならない指揮官の苦労も大きなものになっていった。




