327回 勝利に勝利を積み重ねるためにやれる事はなんでもやる、それが人道にもとるものであろうと知った事ではない 6
「よーし、集まったな」
手近な所に居た連中を捕まえていく。
全員を気力で拘束し、動けなくしたところで指示を出していく。
「これから派手に暴れる事にする。
近くにいる連中を集めておけ。
逆らう奴がいたなら、俺に教えろ。
そいつらにお灸を据えにいく」
動けないでいる者達は、ユキヒコの言葉をただ聞くしか無い。
「もし言いつけを護らなかったら、その時は────」
言いながら、集めた連中の前に大きな穴を空けていく。
それを見てる連中の顔から血の気が引いていった。
「────こういう風にするから。
まあ、命が惜しくない、命よりも意地が大事だっていうなら好きにしろ」
返事は無い。
しかし、答えは聞くまでもない。
「それじゃ、解散。
一週間後までにここに集めておけよ」
その声を聞きながら、集められていた連中は走りだしていく。
言われたことを忠実に守ろうとしながら。
そうしなかった場合の仕打ちを想像してふるえながら。
集められた者達は一週間後、言われた通りに人を集めてきていた。
そうした連中の前に、ユキヒコは一人の男を出していく。
「じゃあ、これからはこいつの言うことを聞くように」
集められた者達に拒否権は無い。
黙って頷くしかない。
そして、そんな連中の前に押し出された男も。
「あの、これって……」
彼は状況を今ひとつ飲み込めてない。
一応、ここに来るまでにある程度の説明は受けていたのだが。
それでも話の内容を信じ切れてなかった。
どうにも突飛すぎて現実味が無かったからだ。
『これから大勢の兵隊をやるから、そいつらを使って敵を攻略しろ』
そう言われてすぐに納得出来る者がいるだろうか?
しかし、実際に来てみればその通りになっている。
色々と信じ切れないのも無理は無いだろう。
そんな彼に、
「じゃあ頑張れ」
無責任に言い放つ。
「失態は自分で打ち消すもんだ」
そうやってけしかけながら。
言われた方は少しだけ顔をしかめるも、やむなしといった表情で頷く。
それはかつて遊撃隊を率いた者だった。
その態度と考えでグゴガ・ルに見切りを付けられた。
そして、何の功績もあげることなく、無駄な損失をあげてしまった。
今回、雑多な連中を集めた部隊を率いるのは、その当事者だった男である。
他にも、その時遊撃隊にいた者達が含まれてる。
グゴガ・ルとは共に行動しなかった者達である。
それらが今回の軍勢の中核要員という名目で集められている。
ある意味栄達といえるだろう。
前回よりも、数ヶ月前の遊撃の時よりも遙かに多くの兵員を率いるのだから。
その数は数千どころか万単位にすらなっている。
それだけ放逐された者が多いという事でもある。
それはこの数ヶ月、前回の戦闘の時よりもはるかに多い。
しかし、その実態は懲罰人事以外のなにものでもない。
前回、遊撃隊が二つに分裂してしまった事。
それも問題ではある。
だが、それは遊撃隊を率いた彼だけの責任ではない。
別行動をとったグゴガ・ルにも責任がある。
それにより戦力の低下を招いたのは事実だ。
しかし、その後の行動が明暗を大きく分けた。
グゴガ・ルは効果的に敵を翻弄し、損害を与え続けた。
対照的にもう一つの遊撃隊を率いた彼は、ろくに戦果も出せず損害を増やした。
その結果、彼は出世や栄達から外される事になった。
やらかした事を考えればそれもやむをえない。
そんな彼に与えられた任務である。
まともなものであるわけがない。
実際、遊撃隊を率いていた彼からすれば屈辱的な扱いだった。
彼が求めているのは、正規軍の指揮である。
統率と規律、訓練がいきとどいた軍勢だ。
それらを率いて敵とぶつかり、武功を立てるのが彼の求めるところだった。
しかし目の前にあるのは、寄せ集め。
それも人生の落伍者の集まりのような連中だ。
実際、犯罪者や訓練などで落ちこぼれが連中が揃ってる。
それらを集めたところでまともな戦いなど出来るわけがない。
そもそもとして、言うことを聞くかどうかすら怪しい連中だ。
(こんなの、どうしろと?!)
口には出さないが、内心そう思ってしまう。




