326回 勝利に勝利を積み重ねるためにやれる事はなんでもやる、それが人道にもとるものであろうと知った事ではない 5
おかげでをもってその後の活動・工作はほぼ滞りなく進む。
指揮を執れる人材の頭数の少なさと、それによる活動範囲などの限界はやむをえない。
また、人材育成が間に合わないのも致し方ない。
そういった面での問題はソウスケの能力でどうにかなるものではなかった。
それでも手順書や育成手法などを構築し、後続が順調に活動できるように道を作っておいた。
それらのおかげで異種族連合側の活動は、さほど支障を来すこともなく進んでいった。
実務においてはそれでも問題が発生したが、記された作業手順などにおいて問題はなかった。
あとは扱う側の問題である。
むしろ、短期間で必要なものを作り上げたソウスケの手腕は素直に評価された。
されたからといって待遇(というか作業状況)の改善がなされるわけではなかったが。
一気に色々とやらねばならぬ時期である。
使えるものは何でも使わねばならない。
特に優秀な人材であるならば、どんな事があっても外すわけにはいかない。
ソウスケは、そんな優秀な人材であった。
それもとびきりの。
主にソウスケの犠牲によって成立した内部浸透工作。
本番を見据えた準備は慌ただしく進み、様々なものが大移動を始める。
人にしろ物資にしろ情報にしろ、それらがあちこちを動き回っていく。
その間に、攪乱工作としてイエル側の領域で様々な事件を起こしていく。
そのほとんどはイエル側にいる不満を抱えたものの爆発という形をとった。
さほど珍しいものでもないので、事件そのものはさほど問題視もされなかった。
だが、事件を起こせるほどの準備をどうやったのかは注目された。
その為、捜査も開始されたが、それらが成果をあげる事はなかった。
証拠を残すようなへまをソウスケはしない。
実行犯にも最低限の情報しか与えてないので、そこから追究される可能性は低い。
それでもきわどいところまで迫ってくる者はいたが、そういった者達はそのまま誰も知らないところで姿を消す事となる。
結果、疑惑は残っても追究手段がない状態になっていく。
残るのは得たいのしれない状況への不安と、それでも発生する様々な事件だけ。
そして、これがより大きな災厄の前触れではないかという根拠の無い想像。
不幸にしてその想像は、これ以上無いくらい正鵠を射ていた。
準備はユキヒコ達のいる方面だけで行われてるわけではない。
一方向から攻め込んだのでは、別方面から援軍が来る可能性がある。
そこで、近隣の様々な方面から圧力をかけて牽制をしたい。
攻め込むまではいかなくてもいい、相手を釘付けにしてくれればと。
そういった要請をユキヒコはヨウセンを通じて行っていった。
ヨウセンとしてもそれは確かにと思ったので、この地方を統括する立場の者達に進言。
現在、その為の調整が行われている。
ただ、いくら作戦とはいえ実入りがないのに動くのも馬鹿らしい、という意見も出てくる。
もちろん、表だってそんな事を言う者はいない。
別の建前を使って進軍要請を蹴ろうとする者もいる。
そういった連中には、糧食などを用意する事で話をつけていく。
それならば物資の消費を気にする必要もない。
労力は使うが、それも作戦成功のためならば多少は我慢出来る。
「さてと」
糧食調達を申し出たユキヒコは、その為の準備を始めていく。
正直に言えば、そんな手持ちなどありはしない。
ユキヒコ達が手に入れ、邪神官の領地になってる地域からの取れ高をもってしても、負担する糧食などを手に入れる事は出来ない。
ヨウセンに都合してもらおうにも、それも不可能だった。
あまりにも大量なので、ヨウセンでも調達が出来ないという。
出来たとしても、それをユキヒコに提供する理由もない。
なので、ユキヒコは自力で糧食を調達しなくてはならなかった。
普通に考えれば無理であろう。
どう考えても不可能だ。
だが、ユキヒコは普通ではない。
気力を解放し、能力を上昇させていく。
人間にあらざる所まで拡大した能力を使い、この世界に介入していく。
その力はこの世をとりまく気の流れを掴み、森羅万象に介入する事が出来る。
極端な話、宇宙の動きにすら手を出す事が出来る。
さすがにそこまで大きいものだと、介入しても与える影響は高がしれてるが。
しかし、この世界、この大地くらいならばさほど難しくも無い。
天候を動かすくらいならば。
ユキヒコは能力を使って天候を操作していった。
快晴を造りだし、雨を降らせていく。
栽培に適した環境を造り、それらによって収穫量を増大させていく。
おかげで作物はほどよく実り、あちこちで豊作が発生していく。
それは軍勢を動かすには十分なほどだった。
「これで糧食は十分だろ」
ヨウセンを通じてそういった言葉を伝えていく。
それを受け取って各地の領主や統括する立場の者達は頷くしかなかった。
ユキヒコが人知を超越した力を持ってる事を、既に彼らは自分の目で見て確かめている。
中には、その力の一端を身をもって知った者もいる。
今回の天候と豊作がユキヒコのものであると認めない者はいなかった。
「それじゃ、約束通りに動いてくれ。
攻め込まなくていいから」
その要望をすげなく却下するような無謀な者はいなかった。
天候を自在に操るような奴である。
それに逆らえばどんな事になるのか、想像すらもしたくなかった。
そんな調子で各軍が動いていく。
それにあわせてユキヒコももう一つ仕掛けをしていく。
多少なりとも今回の侵攻を上手くいかせる為に。
その為に緩衝地帯へと向かっていく。
目的は、そこらで屯している追放した連中である。




