325回 勝利に勝利を積み重ねるためにやれる事はなんでもやる、それが人道にもとるものであろうと知った事ではない 4
ソウスケもそこは割り切っていた。
大半の人間はグズでのろまなものであると。
だからこそ、少しだけでも動けるようになればいいと。
それ以上の成長は、もう運任せになってしまう事も。
それが行商人としてそれなりに長くやってきたソウスケの得た実感であった。
人間には確かに差がある。
格差と言っても良い。
その差を埋める事は出来ない。
それぞれが持ってる器の大きさでやりくりするしかないのだと。
結果として差が生まれるが、それは仕方の無い事である。
それを無理して埋めようとすれば、問題が発生して全てが崩壊する。
器に合わない事をやらせようとすれば無理が発生する。
出来ないことをやらせれば絶対に失敗する。
運良く成功しても、そんなものが続くわけがない。
ならば、出来ないなりに出来る事をやらせるしかない。
その分、成果は小さくなる。
しかし、無理してやらせれば成果そのものを得る事が出来ない。
むしろ損失を増やし、補うために余計な労力などを投入する羽目になる。
ならば、小さな成果で満足するしかない。
そんな小さな成果をソウスケは少しずつ集めていた。
行商人として潜入する中で、とにかくそれに気を配った。
露顕するしたらその瞬間に全てが終わるのだ。
見つからないように失敗が発生しないように気をつけねばならない。
そして、小さくてもいいから成果を出していくしかない。
その積み重ねで今も上手くやっている。
無理して高い目標を掲げるような事もしない。
そんな事をすれば失敗を多発させる。
高い目標など、百害あって一利なし。
それどころか無理や無駄を重ねて無茶をしでかし、失敗と損失を増やすものでしかない。
出来ることをただ繰り返す。
それがソウスケのやってきた事だ。
そして、同じ事を繰り返すだけでも人は成長していく。
一つの事になれれば、不思議とその次に進めるだけの力を得ている。
そうやって時間をかけてソウスケは組織を作ってきた。
それは行商人時代の苦労などが下地になっている。
覚醒階梯と共に上昇した能力でそれを振り返った結果でもある。
何が失敗したのか、どれが成功したのか。
それを踏まえて出した結論だった。
幸い、そうして見つけた手法は上手くいっている。
少なくとも今はまだ。
だから当分はこの方法を繰り返していくつもりだった。
どのみち、大量に増員する必要がある輸送部隊員。
それらに他の事をやらせるわけにはいかない。
交渉や商談などは引率する者が行う。
それ以外の作業員や従業員に任せるわけにはいかない。
そこはしっかり分けていくしかない。
その人選もまた厄介で面倒な事であるが。
当面、案内人に指揮を任せるしかないだろう。
行商人のふりをするならば、商売になれてる者をあてていく事になる。
ただ、それが出来る人間は多くは無い。
「どうすんだよ、これ」
そぶりだけでも行商人が出来る者は少ない。
それらを可能な限り割り振っても、数に限界がある。
それが部隊の上限になるだろう。
となれば、その範囲で活動していかねばならない。
少しずつでもその人数を増やしにしても、当面は限られた人数でやりくりするしかない。
「まったく……」
面倒なことこの上ない。
そんな現状の報告をし、対案を要求する日が続く。
その間にもイエル側における様々な活動・工作を続けていかねばならない。
覚醒階梯の上昇で能力が上がってなかったら倒れていたかもしれない。
そうでなくても結構限界ギリギリな状態を余儀なくされていった。




