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32回 思い出────この世界と神を潰します

「ところでグゴガ・ル」

「なんだ?」

「早速だけど、次の行動に移ろう」

「もう?

 早くないか」

「いや、そんな事は無い。

 もう、頃合いだ」



 拠点と後方への連絡を絶ってから、それなりの日にちが経過している。

 いくら何でも異変に気づいてもおかしくはない。

 となれば、何らかの手を打ってくるだろう。

 それへの対処をしないといけない。



「何が来るかは分からないけど、そろそろ来てもおかしくはない」

「まあ、確かに」

 言われてグゴガ・ルも気づく。

 これが自分達だったら、確かにそれなりの事はする。

 敵だってそれは同じだろう。

 異常があればそれなりの対処をしてくる。



「それで、どうするんだ?」

 事を悟ったグゴガ・ルの問いかけ。

 ユキヒコはすぐに答える。

「準備をしよう。

 敵に備えて」

 明確な内容だった。



「できれば増援を頼んで欲しい。

 俺たちだけじゃ難しいだろうし」

「そうだな。

 隊長にかけあってくる」

「頼む、少しでも早いほうがいい」

 そして、増援は一人でも多い方がいい。

 その事も含めて、ゴグガ・ルに頼んでいく。



 とにかく数が必要だった。

 相手の規模がどれくらいになるかは分からない。

 しかし、対処するには兵隊がいるのは変わらない。

 今現在のゴブリンの数では心許ないものがあった。



「何百人って来てくれるとありがたいんだが」

「それはさすがに難しいな。

 出来るだけ声はかけてみるが」

「頼む。

 来てくれたら、好きなだけ略奪させてやるって言っておいてくれ」

 呼び寄せる口実である。



「この拠点にあるものをちらつかせれば上手くいくと思うんだが」

「そりゃあな。

 だが、隊長が応じるかどうか」

「まあ、そこはこれからの勝利と引き換えって事で」

 それで上手くいけば、とは思う。

 何せ欲望に忠実なゴブリンだ。

 目先の楽しみの為に、将来の報酬を捨てる可能性もある。

 だが、ここはどうにか納得してもらうしかない。



「一応言ってみるが。

 それよりもお前さんから話した方がいいだろう。

 俺が言っても聞いてくれるか分からん」

「ならそうする。

 でも、口利きだけは頼む。

 それこそ、俺がいきなり行ってもいい顔しないかもしれんから」

「それは大丈夫だろうよ」

 ユキヒコの言葉に、グゴガ・ルは肩をすくめる。

「これだけの事をしてくれたんだ。

 ご機嫌で相手をしてくれるさ」



「いよお、良く来てくれた!」

 やたらと機嫌の良いグルガラス・ラウが出迎える。

 ゴブリン達を率いるこの隊長は、お楽しみが終わった直後のようだった。

 下半身むき出しで、恍惚とした表情をしている。

「ここは極楽のようだ。

 全部あんたのおかげだ!」

 手放しでユキヒコを褒める。

(なるほど)

 ユキヒコは先ほどのグゴガ・ルの言葉を思い出す。

 その通りだなと。



 グルガラスはやってきたユキヒコの言葉に、

「なら、そうしよう」

と頷いた。

 即決どころではない。

 ほとんど考えてないんじゃないかと思うくらいの早さだった。

「それでいいのか?」

「かまわん」

 問いかけるも、帰って来るのはやはり承諾。

「お前の言ってた通りにやったらこうなったからな。

 だから、お前にまかせる」

 それで話は決着がついてしまった。



「それにな」

 呆気にとられるユキヒコに、グルガラスは言葉を続ける。

「どうせ俺が考えても、大した事は思いつかん。

 だったら、お前に任せるのが一番だ」

 それはそうなのだろう。

 能力でいえば人間のユキヒコの方が高い。

 経験も知識もそれなりにある。

 比べればユキヒコの方が優れてるとは思う。

 だが、だからと言って敵だった者にそこまで任せてよいのかどうか。

「なあ、これでいいのか?」

「いいんじゃないか、隊長がそういってるなら」

 問いかけたグゴガ・ルも、特に反発することなくそう言った。



「ありがたい事はありがたいけど」

 釈然としないままこれからの事を考えていく。

 予想される敵の動き。

 それへの備え。

 ゴブリン達にやってもらいたいこと。

 様々な事を考えていく。

 そうなると、やらねばならない事が次々と浮かんでくる。

「早めに動き出さないとまずいな」

 事前に準備を終わらすためにも、今すぐ動かねばならない。



「仲間をとにかくすぐにでも呼んでくれ。

 でないと取り返しがつかなくなる」

「分かった」

「それと、他のゴブリン達にも働いてもらう。

 戦い方もそうだけど、監視のやり方や潜伏の仕方。

 そこらをもっとしっかりとやれるように」

「練習を繰り返すよう伝えておく」

「あと、食料とか物資の状況。

 少しでも確実に把握しておいてくれ。

 どのくらいあるのか分かってないとどうしようもない」

「それはもうやらせてる」

 やりたい事、やれる事を一つずつ片付けていく。

 そうしていくうちに、当面の作業は決まっていった。



「それで、あいつらはどうする」

 そういってグゴガ・ルは、とある建物を指す。

 そこについてる窓が少しだけ開いていた。

 立て篭もっている者が様子を見てるのだろう。

「放っておけ」

 ユキヒコの返事は短いものだった。



「外に出られないようにしてるなら問題ない。

 飢え死にするまで閉じ込めておけばいい」

「外に出てきたら?」

「みんなで囲んで倒せばいい」

 ただそれだけの事である。

 残ったわずかな者達の対処などそう難しいものではない。



「警戒だけは怠らないようにな」

「分かった」

 それだけ言うと、ユキヒコは窓に目を向ける。

 そこにかつての仲間がいる。

 だが、何の感慨も浮かんでこなかった。

 顔見知りもそこにはいるかもしれないのに。

 そんな自分に多少は驚く。

 しかし、

(もうどうでもいいしな)

 見切りをつけた為だろうか。

 元同胞に抱く思いはこの程度のものでしかなかった。



「あいつ……」

 覗いて見ていた方は、ユキヒコのようにはいかなかった。

 ゴブリンに混じって行動してる男。

 その姿を見て驚く。

「社じゃねえか」



 見知った顔だった。

 何度か共に行動した事がある。

 腕の立つ者で、この拠点では結構な評価を得ていた。

 聖女と同郷という事で話題にもなっていた。

 そこから、勝手に思い込んでいた。

 聖女と同じ出身の者ならば、女神イエルの崇拝者であろうと。

 それなのにだ。



「なんでゴブリンと」

 敵である魔族と共に行動している。

 少なくともそう見えるような素振りを見せている。

 ありえない事だった。

「なんで……」

 答えは分かってる。

 だが認めたくなかった。



「裏切ったんだろ……」

 室内にいた別の者が呟く。

 そいつも外の様子を伺っていた。

 だからユキヒコの姿も見ていた。

「それ以外にあるか」

「けど……!」

 認めたくなかった。



 頼りになる仲間と信じていたのだ。

 英雄という程では無いが、この拠点では優秀な義勇兵として有名だった。

 そんな男が敵についたなど信じたくはなかった。

 だが、目の前の事実は変わらない。

「なんでだ」

 疑問だけが浮かんでくる。

 その答えを彼が、そしてここにいる者達が知る事は無い。

 これから先も。

 彼等が出来るのは、立て籠もった所から外を眺めること。

 外で起こってる悲惨な出来事に苦悶の声を上げるだけである。



「あんな事を」

「酷い」

「畜生」

 そんな事を呟く。

 しかし、状況を打破する事は出来ない。

 あとは、救援が来るのをひたすら待つだけでしかなかった。

 水も食料もない中で。



「それで」

 窓を見つめていたユキヒコにグゴガ・ルが声をかける。

「その先はどうするんだ」

「そうだな……」

 やるべき事は色々ある。

 当面の目標と言うなら、

「とりあえずここを守って攻め込む準備だな」



 ここに立て籠もってるつもりはない。

 攻め込んで敵を少しでも倒すつもりではいた。

 それで終わりというわけでもない。

「そしたら」

「そしたら?」

「……女神をぶっつぶす」



 出来るとは思わなかった。

 だが、やろうと思っていた。

 女神そのものはつぶせなくても、それを信じるあらゆる者だけは。

 こんな世界を作り出した存在を。

 そんなユキヒコに、

「分かった」

とグゴガ・ルは応えた。

 ユキヒコの考えや思いが分かっただけで充分なようだった。



「それじゃ、応援を呼びにいかせる。

 話が届くまで時間がかかるが」

「残ったやつらには訓練や偵察とかだな。

 あと、防衛用に何か作っておきたい」

 当面必要そうな事を口にしていく。

 その言葉を聞いてグゴガ・ルは、早速仲間を呼び寄せる。



 各所に指示が出されていく。

 それに応じてゴブリン達が動いていく。

 功績を挙げてきたユキヒコの言葉だ。

 ほとんどの者が疑う事無く従っていった。

 おまけに、隊長であるグルガラスの信もある。

 なので逆らう者はいない。

 ユキヒコへの反発は、ユキヒコを信じてるグルガラスへの不忠になりかねない。

 そんな事をしようとする者はさすがにいなかった。



 そして、間に立って回りに指示を出してるグゴガ・ル。

 彼の存在もありがたいものだった。

 お目付け役や監視のためにそばにいるかもしれない。

 だとしても、ユキヒコの傍で様々な事をしてくれる。

 単純にゴブリン達との間に立ってくれてるだけでもありがたい。



 伝手も人脈もないユキヒコには、信じて動いてくれる者達が必要だった。

 今、それが確かに有る。

 だからこそ、彼らに応えねばならない。

 これまで通りに勝利を提供できるように。

 今、ユキヒコとゴブリン達をつないでるのは、それだけなのだから。



 そんなグゴガ・ルにも伝えてない事がある。

 この先の事についてだ。

 ユキヒコがしたい事。

 この先の展望や目標、目的。

 その中に言ってなかった事がある。

(こんな世界も……)

 潰したいものにはそれも含まれている。

 その事は、さすがにグゴガ・ルも言えなかった。

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