316回 数はともかく質において双方問題を抱える軍勢が衝突していく 9
遊撃から帰還したグゴガ・ルには新たな指示が出された。
それは、敵勇者との戦闘。
今回の戦闘で、おそらく最も危険と思われる任務だった。
それを任されたのは、遊撃におけるグゴガ・ルの功績の大きさだ。
未熟な所もあったが、結果として全てを成功させた。
その能力をたのみ、敵勇者に攻撃を加えるという大役を任される事になった。
これにはユキヒコの推挙もある。
「あいつならやってくれるだろう」
そう推す声が決めてとなった。
これによるグゴガ・ルには可能な限りの兵力が与えられ、本体と離れて敵後方へと向かう事になった。
戦況が不利ならそれを覆すために。
戦況が有利ならそれを確定させるために。
その為に可能な限り大きな兵力を与える事になった。
防衛も考えれば本当にギリギリの数である。
それらは今、ようやく手薄になった敵本陣へと向かっていく。
その顔は、全員能面のように平坦だった。
それもそうだろう、これから勇者のところに突っ込むのだから。
一人が数百の部隊に匹敵する、あるいはそれ以上と言われる勇者である。
恐怖を感じないわけがない。
だが、それでもあえて突っ込むのは、勇者を野放しには出来ないからだ。
どんな犠牲をはらっても止めねばならない。
でなければ、今後更なる悲劇や被害を受ける事になる。
それは避けねばならない。
そうでなるならば、ここで勇者を仕留めるしかなかった。
どれだけ犠牲を払っても。
なんにしても勇者がいるうちは安心できるものではない。
それを止めるのに並大抵ではない努力が求められてもだ。
それが分かってるからこそグゴガ・ルらを突入させていく。
この中で最も高い能力を持っているから。
また、勇者相手だからこそ2000という数を絞り出した。
それだけの数がなければ、勇者の相手などつとまらないのだ。
背後を突く形で突撃するグゴガ・ル達は、ただひたすらに勇者へと向かっていく。
ほとんどの兵力が前進しているせいで、勇者のいるあたりはかなり手薄だ。
おそらくグゴガ・ル達と数は同じくらい。
それならば、彼らでも突破できる可能性があった。
両者の衝突は獣人から始まっていく。
俊敏さに勝る彼らが先に進み、目の前にいた敵を倒していく。
敵もそれを察知して向かってくるが、獣人の敵では無い。
だが、一撃で倒せるほどではない。
いかに素速い動きで急所を突く獣人でも、相手を粉砕するほどのではない。
それを担うのは、遅れて到着する鬼人達だ。
先行してある程度敵を片付けていた獣人とかわる鬼人達。
彼らは手にした長柄武器で敵を次々に吹き飛ばしていく。
他種族が使う物よりも太い柄を持つ頑丈なそれは、棍棒に等しい打撃武器でもある。
先端に付けられた野太い刀部分で切りさく必要も無い。
一振りすればそれだけで敵は吹き飛んでいく。
致命的でないにしても、そんなものを受ければ衝撃で体がしばらくは動かない。
その間に鬼人達はどんどん前進する。
ただ、鬼人の攻撃は基本的に単調だ。
横になぎ払って面を制圧するのが目的である。
いちいち狙いを付けてるわけではない。
どうしても攻撃が当たらない者も出てくる。
それでも鬼人は構わず前進をする。
彼らに求められてるのは敵の一掃ではあるが殲滅ではない。
こぼれたものがあっても、それは仕方ない事として先に進む事が求められる。
まず第一に啓開する。
それが鬼人に求められてる事だった。
そうして生き残った敵は、鬼人に追従しているゴブリンが倒していく。
鬼人1人に対して5人ほどのゴブリンがついている。
そんな彼らは取りこぼした敵の始末をしていく。
前線に立つほどの度胸の無いゴブリンであるが、誰かの後ろについていくくらいは出来る。
取りこぼしたわずかな敵を倒す事も。
鬼人が通った後に残る敵はそれほど多くは無い。
せいぜい、一人か二人である。
それならばゴブリンも数人がかりで襲いかかって倒す事が出来る。
鬼人の攻撃範囲からそれた所から迫る敵の排除もゴブリンが行っていく。
さほど数の多くないそうした敵ならば、ゴブリンでも十分に撃退可能だった。
大きな部分は鬼人が、細かい部分はゴブリンで対応。
遊撃隊で培ったこのやり方は、着実な戦果をあげていった。
その背後でイビルエルフ達が魔術による援護を行っていく。
眠りや朦朧状態を起こしていく事で戦闘能力を下げていく。
派手さはないが、数十人以上の魔術師による広範囲攻撃は戦況に大きな影響を与える。
近くに居た敵のほとんどがまともに動けなくなっていく。
そうなってる間に敵は切り伏せられていく。
そうでなくても、接近してくる足が止まる。
進軍を阻む者が減るのは確かだった。
邪魔する者が大幅に減ったところで、グゴガ・ル達は勇者へと迫っていく。
最後に残っていた敵勢のほとんどがいなくなっている。
あとは勇者だけという状態だった。
その勇者もすぐに見つかる。




