312回 数はともかく質において双方問題を抱える軍勢が衝突していく 5
そんな敵を前に、前線部隊は善戦している。
ゴブリン主体の軍勢ではあるが、迫る敵を確実に切り伏せていく。
しかし、倒してもすぐに背後から敵があらわれる。
倒しても倒してもきりがない。
それが戦ってる者達に厭戦気分を起こさせていく。
これほど戦ってるのに、敵は尽きることなくやってくる。
自分たちのやってる事は無駄ではないかと思わされてしまう。
それこそ勘違いなのだが、前線にいる者達はそれに気づかない。
全体を見通す術の無い彼らは、目の前の事実だけを見ている。
そこにあるのは、数を減らす敵勢ではない。
すぐに後ろからやってくる人の波である。
そんな敵に、体より先に心が疲れていく。
それは指揮を執ってる者達も掴んでいった。
今はまだ前線を支えているが、このままでは遠からず崩壊する。
そうなる前になんとかしないと、と思っていく。
だが、状況を好転させるような何かがあるわけもない。
強力な兵器で敵を一掃できるなら良いのだが、そんな都合の良いものはない。
だんだんと前線が疲弊していく。
「もう無理だな」
前線の各所にいる指揮官達はそう判断していく。
すぐに近くにいる伝令に、
「後方に伝えろ、もう無理だと」
指示を出して伝えさせていく。
話を聞いた伝令が走り出す。
それはリレー形式で即座に後方の司令部に伝えられていく。
それを聞いたところで司令部は即座に指示を出す。
「撤退だ」
撤退の合図が鳴り響く。
それは太鼓だったり笛だったり。
決められた符丁に従って音が発せられていく。
また、伝令による指示も伝えられていく。
「撤退、撤退!」
それを聞いた前線指揮官が更に部下に伝えていく。
聞いた者達は即座に撤退にかかる。
その為に、目の前にいる敵を、一時的にでも足止めせねばならない。
幸い、すぐに後方から大量の矢や石が飛んでくる。
撤退の援護をするために、敵への攻撃が加えられていく。
前線各所に配置された即席魔術師達も、相手の目潰しなどで時間を稼ぐ。
そうやって前線にいた部隊は後方に引き下がっていく。
こうして第一陣は突破されていった。
だが、戦いが終わったわけではない。
第一陣が突破されるのは予想されていた事だ。
それも踏まえて第二陣が用意されている。
そこにも、急造ではあるが敵を防ぐための陣地がこしらえられている。
そこを次の拠点に、異種族連合は迎撃態勢をとっていく。
なお、ここまでの段階での戦果と損害であるが。
異種族連合側が、総勢500の死傷者を出している。
これに対してイエル側の勇者軍は死傷者4000。
八倍の差をつけて異種族連合側が優勢といえる。
だが、元の数を考えればこれでもまだ差が大きい。
異種族連合側の戦力は1万9500ほど。
対する勇者の軍勢は4万1000程が残ってる。
未だに総戦力では二倍以上の差がある。
縮まりはしたが、まだまだ敵の方が優勢だ。
そして、士気の上では勇者の軍勢の方が高い。
それは奇跡によるものではあるが、それでも有利な点であるのは確かだ。
対して異種族連合側は疲労などによる意気の低下も見られる。
それを考えれば、勇者の軍勢の方が有利と言えた。




