310回 数はともかく質において双方問題を抱える軍勢が衝突していく 3
積み上げられた土嚢が高い壁となっている。
堀と合わせて大きな落差を作っている。
手足がまともに動かない勇者の兵隊が越えるのは難しい。
しかも、そこまで距離がある。
この堀、深さはたいした事はないが、横幅がある。
狭いところでも十メートル。
場所によってはそれ以上の開きがある。
その幅を渡りきるのにも時間がかかる。
その間に矢や石が飛んでくる。
それに倒れる者達も出てきた。
積み上がった土嚢にまで届いても、そこから槍が突き出される。
それが近づいた兵を串刺しにしていく。
急所を突かれればそのまま倒れ、押し寄せる後続に踏みつけられていく。
それは倒れても同じだった。
跪いたり、少しでもよろけても危うい。
ちょっとした事で倒れたら、もう起き上がる事は出来ない。
ただひたすらに前進を続ける後続に踏みつけられていく。
そんな同士討ちがあちこちで起こっていく。
それを見越して即席魔術師のゴブリン達が兵士達を転がしていく。
そうすれば、労せずして敵を減らす事が出来る。
あちこちに分散している即席魔術師達は、そうして敵勢を減らしていった。
そうなってるのも、敵軍がただひたすらに前に進んでいるからだ。
何も考えず、前のことなど注意もせず。
高まった士気によって前に進むことだけを考えている。
そのせいでいらぬ損害が出てきてしまっていた。
隊列を考えてないのも影響している。
普通、隊列や陣形というのは、適度に密集しているものだ。
それでいて、兵士同士の間はそれなりの間隔が開いている。
これは、密集する事で兵士がドミノ倒しになる事を防ぐ為でもある。
誰かが転んでも、それが隣や前後に倒れて巻き込まないように。
また、飛んでくる矢や石が集中して当たらないように。
適度な間隔を空けておく事で、余計な被害が出ないようにしている。
しかし、奇跡によって動いてる軍勢にそんな頭はない。
敵に向かっていくという単純な意思しかない。
それが被害の拡大に拍車をかけていた。
本来ならば、そうならないように指揮官などが指示を出すようにはなっている。
だが、この軍勢にはその指揮官もいない。
一応、名目的にある程度の人数を束ねる者はいる。
だが、それらも正式な訓練や教育を受けたものではない。
軍勢に編成されたまともに動けない者達から選出されてるだけだ。
こんな時の対処法などすぐに思いつくわけもない。
仮にそれらが出来る者がいたとしても、状況を打破する事は出来なかっただろう。
兵が指示を聞ける状態ではないのだから。




