303回 遊撃隊、突撃する
そんな真面目な馬鹿が、損害に見合わない成果をあげてる時。
グゴガ・ルらはいつも通り日中に攻撃を仕掛けていた。
遠距離からクロスボウで攻撃をし、敵を減らしていく。
いつも通りの奇襲だ。
敵もそれに馴れて、盾をかざして対処してくる。
その為、損害はそれほど大きくは無い。
それでも、相手に緊張を強いるために攻撃を仕掛け続けていた。
今までは。
この日、グゴガ・ルはそれまでとは違う行動をとっていく。
いつもならほどほどのところで退いていた。
だが、この時はその逆。
敵に向かっていく。
「行くぞ!」
声を張り上げるグゴガ・ルは、鬼人族を先頭にして突進を命じていく。
それに敵があわてる。
「おい、あいつら!」
「突進してくるぞ」
いつも通りにある程度のところで退却すると思っていた。
それが違うので驚きあわてる。
とはいえ、グゴガ・ルらが到着するまでしばしの時間がある。
迎撃のための体制をある程度はととのえる事が出来る。
「槍を構えろ!」
すぐに指示が飛ぶ。
そこにいた槍隊が槍衾を作っていく。
隊列が揃ってるとは言いがたいが、それなりに格好はついていた。
そこに鬼人達が突っ込んでいく。
一見無謀な突撃。
挑んだ鬼人達は、槍に阻まれ、あるいは突き刺されていくと誰もが思った。
だが、そうなるよりも先に、彼らの目を様々なものが覆っていった。
それは、鬼人達に従ってついてきたゴブリン達によるものである。
『光よ』
『水よ』
『火よ』
『土よ』
短い詠唱を唱えるゴブリンの即席魔術師達。
それと共にくりだされる魔術。
それらが槍を構える兵の目のあたりで効果をあらわしていった。
ちらつく光が目をくらます。
突然現れた水が目に入る。
火花があらわれ、目を刺激する。
土というより砂があらわれ、目に入っていく。
いずれもさほど威力は無い。
少なくとも負傷を与えるほどのものではない。
だが、目に入る事で一時的に前が見えなくなる。
目くらましという意味では実に効果的だった。
それで生まれた隙をついて、鬼人達が突進していく。
前に突き出されてはいたが、敵に向けて突き出される事のない槍は、簡単に吹き飛ばされていった。
そして、鬼人による蹂躙がはじまる。
突進した鬼人は、足こそ遅いがその怪力で敵を吹き飛ばしていく。
彼らが手にする薙刀は、軽く兵士を横薙ぎにする。
刃に当たれば両断して。
鬼人の力にあわせて太めに作られた柄はそれだけで骨を砕く打撃を繰り出す。
彼らが通ったあとには何も残らない。
だから足が止まる事は無い。
軍勢同士の衝突となれば、まず間違いなく両者ともに足がとまる。
それから敵を倒した方が前に進む。
その繰り返しになるので、どうしても進軍は遅くなる。
どんな俊足の種族であってもだ。
それが普通だろう。
だが、鬼人達の場合は少し違う。
彼ら自身の足はさほど速くは無い。
なので、戦場での展開速度は遅い。
しかし、敵軍と激突した場合は違ってくる。
その絶大な力で敵を粉砕し、道を切り開く。
なので進軍速度が落ちる事がほとんどない。
軍勢同士のぶつかり合いの場において、もっとも足が速いのが鬼人である。
そんな彼らの道路啓開力は今の遺憾なく発揮されている。




