299回 遊撃隊、初動はまず成功 3
「どうします?」
同行してきたゴブリンに聞かれる。
「どうもしない、このまま退くさ」
グゴガ・ルは軽く言う。
「別に倒さなくてもいい。
警戒してるなら、そうさせておこう」
「いいんですか?」
「ああ、かまわない」
本当に気にしてないそぶりでグゴガ・ルは答える。
「あれだけ警戒してくれれば大助かりだ」
警戒してるという事は近づく事は出来ない。
だが、警戒してる方は相当な負担をしなくてはならない。
夜中の警戒人数の増加は、日中に行動可能な人間を減らす。
その分、移動に割く時間も減る。
それはそれでありがたい。
兵力を減らす事は出来ないが、時間を稼げる。
「それに、あれだけ警戒してるんだ。
奴らもかなり疲れるだろう」
「確かに」
「だから、しばらくは放っておこう」
「分かりました」
「ただし」
「はい?」
「奴らもそのうちこんな警戒を続けられなくなる。
どこかで疲れがたまってくる。
そこを狙うぞ」
それが今日か明日か明後日かは分からない。
だが、その瞬間は必ず訪れる。
襲いかかるのはその時である。
それまでは我慢比べとなるだろう。
「まあ、気楽にいこう。
無理して仕掛けて痛い思いするのも嫌だし」
「了解です」
従うゴブリンもグゴガ・ルに賛同した。
一般的なゴブリンよりは真面目であっても、ゴブリンはゴブリンである。
やらずに済むなら面倒は避けたかった。
ただ、ここで予想外な事がおこる。
分裂した遊撃隊の動きだ。
彼らはゴブリンの補充を受けて部隊の規模を回復すると、敵に向かって動き出す。
そして、動きの鈍ってる勇者の軍勢に向けて突進していく。
一応、奇襲に適した場所を選んで。
しかし、腐っても数万の敵勢である。
そこに400程度の兵力で突入するのは無謀というしかなかった。




