298回 遊撃隊、初動はまず成功 2
「なんだと!」
翌朝、報告を受けた勇者は仰天した。
「敵襲を受けていた?」
「はい。
軍勢のうち2000が死亡」
「嘘だろ……」
信じられなかった。
「何が、どうして?」
「詳細は分かってない。
たぶん、夜中に襲ってきたんだろうが」
その通りである。
だが、それ以上は分からない。
分かっていてもどうにもならない。
既に損害は出てしまっている。
それを取り返す事は出来ない。
「とにかく、夜中も気を抜かないように。
敵はどこにでもいる。
どこからでも来る」
その事を徹底するしかない。
「ここはもう魔族が支配してる。
取り戻さない限り、こういう事は何度も続くぞ」
勇者であるタツハルはそう言って全員の気を引き締めようとした。
しかし、気持ちに対応が追いつくとは限らない。
何せ急造の部隊である。
訓練すらもまともになされてない。
それを補う古参兵もいない。
全員新人の軍隊だ。
こんな事が起こってもどうすればいいのか分からない。
「とにかく、夜中の見張りをもっと増やそう」
単純な対策しか出てこない。
「交代で見張るしかない」
「だが、それだと日中に動ける者が減る」
「移動も今より遅くなる」
「仕方ない」
それもやむを得ない。
「これ以上誰かが死ぬよりは良い」
実際、それくらいしか対応策はないだろう。
これが正規の軍勢なら、もう少し対応の仕方があったかもしれない。
そもそも、夜中の襲撃をそこまで許す事もなかっただろう。
起こってしまうにしても、いくらか敵を撃退していたかもしれない。
また、残った足跡から敵を追跡し、殲滅していたかもしれない。
しかし、そういった手段をとれるほど彼らは知識も技術もない。
あったとしても、まともに動かない体で対策をまっとうする事は難しい。
出来る事は、敵の接近を許さない、その為に警戒を強めるくらいだった。
それはそれなりの成果をあげた。
次の夜、同じように接近したグゴガ・ル達は警戒の強さに接近を諦めた。
下手に襲撃すれば、今度は反撃を受ける。
そうなったらゴブリンではひとたまりもない。
残念ながら、襲撃は一回だけで終わることになりそうだった。




