292回 同じ部隊であっても、体験や経験を共有してるわけではない 4
「それで、どうする?」
「どうするとは?」
聞かれてグゴガ・ルが聞き返す。
言ってる意味はわかるが、何故自分に聞くのか、と思ってしまう。
なのだが、
「あんたが大将なんだろ。
だったらあんたの考えを聞いておきたい」
言うに事欠いてこんな事を声に出してくる。
「なんだそりゃ?」
「なんだって、このゴブリンを束ねてるのはあんただし。
一番大きな部隊を率いてるのはあんただ。
なら、そこが中心になるもんだろ」
「そりゃそうかもしれんが」
だからと言って、いきなり指揮官というのもどうかというものだ。
だが、周りの連中はそんな事気にもせず、
「頼んだぞ」
「任せた」
「あんたなら大丈夫だろ」
と言ってくる。
グゴガ・ルはため息を吐くしかなかった。
そういった事を伝令ごしに知ったユキヒコは、
「なんとまあ」
と言って笑った。
意見が割れるとは思ったが、まさかここまで動くとは思わなかった。
若手ややる気だけがある連中と、グゴガ・ルら古参との間で溝が生まれるのは予想はしていた。
いずれ何らかの衝突や決裂もあるだろうと。
しかし、それがこれだけ早くやってくるとは思わなかった。
ある程度想定のうちではあるが。
それでも読み切れない出来事というのは発生する。
「個人的には、グゴガ・ルの好きにさせたいと思うんだけど」
一緒にいた邪神官とイビルエルフに考えを伝える。
受け入れられるかどうかは分からないが、自分が最善と思うところを口にした。
「かまわん」
「それいいのでは」
あっさりと二人は承諾する。
「いいのか?」
「特に問題は無いだろう。
それにだ」
「お前さんがそうした方がいいと思ったのだろう?
だったらそれで間違いはないだろう」
圧倒的な信頼である。
「そこまで俺を信じるのか?」
「まあな」
「今までを考えるとな」
確かな実績がある。
だから二人はユキヒコを信じる事にした。
「それに、我々ではお前ほど頭が働かない」
「下手の考え休むに似たりだ」
「いや、少しは考えようよ」
「もちろんそうしてる」
「けどな、我々が下手に考えるよりも、お前の思いつきのほうがマシな結果をもたらす」
そうなると、無駄に考える時間を費やすのがもったいない。
ユキヒコに頼りっぱなしというわけにはいかないが、省けるものは省きたかった。
何より、今は時間がない。
「実際、好きにさせた方がいいだろうしな」
「若い連中はやり方が分からないから正攻法をとらざるえないだろう。
それよりは、グゴガ・ル達の自由に任せた方がいい」
彼らとしても、それが最善という考えは変わらない。
「幸い、若い連中のところにも古株は少しは残ったようだしな」
「最悪、そいつらがなんとかまとめるだろう」
全員がグゴガ・ルについていったわけではない。
残って尻拭いをしてくれる者達もいる。
ならば、あとは流れに任せた方が無難に思えた。
「なんとかなるだろう」
こういう時は無責任になるに限る。
現場の事は現場の者に任せて。
必要な支援を十分に行いながら。




