289回 同じ部隊であっても、体験や経験を共有してるわけではない
遊撃隊に選ばれていた者の中に、邪神官配下の者は少ない。
ユキヒコと行動を共にした者もだ。
ほとんどが新規で入ってきた者達である。
特にゴブリン以外はその比率が高い。
そもそも、ユキヒコが一緒に行動していたのは、大半がゴブリンである。
他の種族の者もいるにはいたが、その数はさして多くは無い。
そして、そういった者達のほとんどは迎撃の為に防衛陣地に配置されている。
多少はこの遊撃隊にもいるが、その数は少ない。
更に、その少数もユキヒコの考えに賛同してるとは言いがたい。
作戦として、命令されたから従っていた者がほとんどだ。
ユキヒコのたてた作戦に従って動いていたが、それに納得してたわけではない。
どちらかというと、イヤイヤながら承諾していたという者が多い。
彼らにとって、戦争とは華々しく戦うもの、という意識が強い。
それは軍勢として、軍隊として戦うというものが根本にある。
その上で搦め手や駆け引きがあるのは承知しているだろう。
だが、それらはあくまで主力のぶつかりあいを助けるものだ。
それが主になってるわけではない。
愛国心ゆえか、義務感ゆえか、そうあるべしという風土的な考えによるものなのか。
はたまた戦功をあげたいという欲求なのか。
それが彼らの思考を一つの方向に進めてしまっている。
そこがグゴガ・ルと違うところだった。
グゴガ・ルは戦うために、生き残るために奇襲や絡めてを主軸としている。
言うなればゲリラ戦を中心に戦い方を想定している。
そうでなければ、能力の低いゴブリンでは戦いにならないからだ。
だが、遊撃隊にいる他の者は違う。
軍勢同士の戦いを中心に考えてる彼らにとって、グゴガ・ルの言う戦法は受け入れがたいものがあった。
やるにしても、それは戦いの前哨戦。
その後に来る軍勢同士のぶつかり合いの為のものとなる。
敵を引きつけて終わり、足止めだけで十分とはならない。
ここで意識の差がはっきりと出てきてしまった。
方針の違いと言っても良い。
それが摩擦を生んでしまっていた。
(まずいな)
様々な意味でグゴガ・ルはそう思った。
仲間の中で意見の違いが出てしまった。
今後の行動における危険が出てきてしまった。
何より、作戦における最終目標が達成出来ない可能性が出てきた。
(まずいな)
他の者達の言い様を右から左に聞き流しながら危機感をつのらせる。
(どうにかしないと)




