284回 こちらとあちらの部隊展開とそれにまつわるあれこれ
「さてと」
馬車から降りて背伸びをする。
疲れてはいないが、体が硬くなった気がする。
それをほぐしながら周囲を見渡す。
「ここからか」
自軍と敵の国境の中間点。
そこから少しばかり敵地に踏み込んだ場所。
そこがグゴガ・ル達の降りた場所である。
そして、作戦行動の拠点となる。
すぐにグゴガ・ルは配下のゴブリンを集める。
「分かってると思うが、俺たちの仕事は偵察だ。
敵を見つけても襲いかかる必要は無い。
そんな事するくらいなら、見つからないうちに帰ってこい」
それがゴブリンに与えれた仕事だった。
数の上では多いゴブリンである。
その仕事は基本的に偵察だ。
戦闘は主任務にはなってない。
戦っても勝ち目が低いからだ。
それよりは、その数を利用して広く展開し、敵の動向を探る事が求められる。
そして、敵の動きを掴んだら即座に報告。
攻撃の要となる他種族の部隊に引き継ぐ事になる。
「場所はもう分かってるな?
地図は持ったな?
だったら、行け。
伝令網も作っておけ」
そう言ってゴブリンを動かしていく。
返事もそこそこにゴブリン達は動き出していった。
事前に決めておいた通り、ゴブリン達は所定の場所に拡散していく。
五人一組の部隊を作り、それを数百メートルずつ配置していく。
これを広く展開する事で、即席の伝令網を作る。
敵を発見すれば、それらが即座に連絡を寄越してくる。
それを聞いてから、ゴブリン以外の種族による本隊が動く。
広範囲を捕捉するために、こういった手段がとられた。
ただ、これでも数キロくらいの範囲を見渡すのが限界である。
その範囲外の出来事にまでは対応出来ない。
事前の情報から、おそらくこのあたりを通るだろうという所を見張ってはいる。
しかし、相手がそれとは違う方向に動いたらどうにもならない。
この範囲にやってくるかどうかはどうしても博打になってしまう。
それでも、高い確率の所に賭けるしかない。
ただ、それでもある程度の探知能力を確保する努力はしている。
末端の、敵の発見に従事する部隊には調査関係の魔術を使える者を配置している。
魔術による望遠や聴音が出来る者などだ。
これらは即席魔術師として育てられたゴブリンがあてられていた。
彼らはそれしか出来ないが、こういった調査・偵察にはうってつけである。
今回の出動、こういった魔術がどれだけ使えるのかを試す場にもなっている。
危険ではあるが、実戦における効用を確かめようという意図があった。
それでも、どうしても漏れる範囲も出てくる。
そういった場所には足の速い獣人などが出向く事になっていた。
可能であるなら騎兵などを用いたいところだが、そうもいかない。
騎兵は確かに迅速な行動には向いている。
しかし、どうしても高さが出てしまうので、発見されやすくなる。
偵察においてそれは避けたいので、初動においては用いない事にしていた。
展開した遊撃隊は、その後しばらくは敵の発見につとめる事になる。
その間に、緩衝地帯に点在していた各部隊は、最低限の人数を残して撤退。
後方の防衛陣地にこもる事になる。
そうしてる間にも敵地からの情報がもたらされる。




