283回 思ったよりも早い勇者投入 5
「だから荷物については考えなくていい」
「なるほど」
それでグゴガ・ルも安心した。
少なくとも、自分たちだけで何とかする必要はない。
それだけでも負担は大きく減る。
ただ、それはそれで新たな問題が出てくる。
「けど、それだと行動範囲が狭まるんじゃないのか?」
遊撃隊の目的は、自由な行動による襲撃である。
活動・行動範囲が広い事が利点だ。
その為に食料などを持ち運ぶ必要がある。
後方部隊がその部分を受け持ってくれるのはありがたい。
しかし、そうなると自由に動き回るという利点が大きく減る。
後方部隊がいてくれるのはありがたいが、それらの活動範囲を中心として動く事になる。
自由行動という部分が大きく減る。
だが、ユキヒコはその事を全く気にしてなかった。
「単独で行動させる方が問題だ」
もし遊撃隊だけで動かした場合、その行動範囲はより小さいものになる。
移動手段を彼らの足だけにした場合も。
それよりは、馬車を使って移動させた方がいい。
活動拠点としていくつかの野営場所を設置したほうがよい。
結果としてその方が行動範囲がひろがる。
「この後方部隊は、それほど練度もいらないしな」
直接戦闘をするわけではない。
馬車の操作や物資の管理などでそれなりの能力は必要にはなるが。
それでも戦闘能力が必要ない分だけ、訓練などの必要性は低くなる。
必要なのは誠実に仕事をこなす意欲。
それがあれば、さほど訓練がされてなくても良い。
「だから、支援だけさせる」
そこはユキヒコ達も割り切った。
それでも遊撃隊は熟練者だけというわけにはいかない。
どうしても訓練が完全では無い兵士も含まねばならない。
防衛の方にも人を割かねばならないので、こればかりはどうしようもない。
「その代わり、出来る奴は揃えたから」
訓練段階で高い能力を示した者。
それらを遊撃隊には組み込んでいる。
「だから、何とか上手く使ってくれ」
新兵である事はかわらない。
その分の負担はどうしても出てくる。
だが、そこはグゴガ・ルにどうにかしてもらうしかなかった。
頼まれた方は、
「はいはい」
と肩をすくめるしかない。
それでも急いで編成された遊撃隊は出撃していく。
人間、鬼人、獣人、イビルエルフ、ゴブリン。
雑多な種族構成のそれらは、いくつかの馬車に乗せられて前線に投入されていく。
その後ろについていくように、後方支援の部隊も出発していった。




