280回 思ったよりも早い勇者投入 2
「準備は?」
防衛側の状態を問う。
「出来てるとは言いがたいな」
「大半がゴブリンだし、訓練も十分とは言えない。
おまけに、防衛設備もまだ完全じゃない」
せめて数だけでも上回ってればと思うが、それも期待出来ない。
「もし情報通りだったら、相手の数はこっちより上になるぞ」
それだけの数を繰り出してきている。
「まともに動かないような連中ばかりだが、これだけ多いとな」
敵の大半は、ユキヒコ達が追い払った者達である。
当然、まともに動かない体にしてある。
それらが、まさか攻め込んでくるとは思ってなかった。
今まさに攻め込んでこようとしてる今でも、ユキヒコ達は信じがたいものがあった。
どう考えても戦力になりそうになかったからだ。
それでも数万という数はさすがに脅威である。
現有兵力で対抗できるか不安があった。
「今、こちらが出せる兵力は2万。
数だけはいるが」
邪神官が自前の兵力に多少の懸念を表明する。
「戦闘の経験者はこの十分の一。
それ以外の新兵で訓練完了者は半分程度。
装備も完全には行き渡ってない。
これでどうにかなるのか?」
「正直厳しいな」
ユキヒコはためらわず事実を口にする。
「しかもこれ、あちこちに分散してるんだろ。
それをまとめないと戦争にならんぞ」
「今、移動命令を出してる。
だが、集結には時間がかかる」
「そもそも、どこに集結するのか。
それ以前にどういう行動をとるのか。
それすらも決めかねている」
「事前に定めた通りに動いてはいるがな」
邪神官とイビルエルフの言葉には諦めが混じっている。
事前に練っていた作戦はある。
様々な状況を想定し……とはいかないが、何かあった場合の行動については定めてあった。
それでも今回のような状況は想定を越えている。
いや、一応想定の中には入っている。
『ここに記しうる最悪の状況の場合』というような形で。
そうなった場合にとる行動は、可能な限り速やかな撤退。
それによる戦力の糾合での対処、となっている。
ようは、
『各部隊が単独で戦っても負けるだけだから、集まって撃退しよう』
という事でしかない。
間違ってはいないが、現状を打破するにはいささか力不足だ。
これを基本として、更に何か付け加えるべきであろう。
だが、そんな事をしてる余裕が無い。
たとえ作戦として有効な手段を考案したとしてもだ。
それを実行できる人材がいない。
人材というと大げさだが、必要な能力や技術を持った者がいない。
いても全体の中では少数だ。
作戦行動というのは訓練を終えた兵士がいて始めて成り立つ。
出来るならば、訓練過程を終えて多少なりとも経験を積んでる方が好ましい。
そこまで出来る者がここの部隊には圧倒的に不足していた。
そんな状態で何が出来るのか?




