277回 いない方がいい連中が思ったよりも良い結果を出してくれた
「けど、思ったよりもやる」
与えた損害は、1500ほど。
それだけの損失を与えたならば上出来だ。
けが人はいずれ回復するにしても、当面は戦力にならない。
その手当に人手や薬なども割く事になる。
その分、様々な方面に負担をかける事になるだろう。
考え方によっては、単純に死ぬよりも負担は大きい。
もちろん、魔術や奇跡を用いての治療をしてくるかもしれない。
前線に復帰する兵士はそれで確保するかもしれない。
だが、それはそれでいい。
魔術はともかく、奇跡は使えば消費してしまう。
再び魔女イエルから授からない限りは使えない。
なので、簡単に奇跡は使わないだろう。
効果の小さい、その分比較的簡単に授かる奇跡ならばいくらか簡単に使うだろうが。
それでも、数多い負傷者の治療にそう簡単に用いる事も無いはずである。
求めるのは、そうした負担だ。
勝利ではない。
そもそも、勝てるなんて思ってもいない。
簡単に勝てるなら苦労はない。
ユキヒコが進めてるのは、相手の出足をくじくこと。
負担を増やして、出兵する余裕をなくすこと。
動けない兵士を増やし、壊れた陣地を作ること。
そうする事で、これらを回復・修繕する事に労力を使わせること。
そうする事で、勇者の出撃を可能な限り遅らせる事だった。
たとえ勇者が無事・健在であっても、それが動きだすとは限らない。
勇者の出撃には様々な制限があるのだ。
具体的に言えば、上層部からの指示。
これは主に教会が出すのだが、その教会も様々な思惑で左右される。
戦線の状況もそうだし、教会の都合もある。
また、政治などとの兼ね合いもある。
民衆の要望というのも影響する。
それらが様々に絡み合って、勇者の出撃に至る。
勇者自身の意思というのもあるが、それだけで出撃するという事は少ない。
情勢が分からないのに出発するという事はまず無いからだ。
どこで何が起こってるのか分からないのに出撃しても、無駄足になる可能性が高い。
だからこそ、教会や政府といったものの指示や要請を受けて行動する。
そうであるならば、今回のような損失が勇者の動きを封じる事になる。
損害があるならば、その穴埋めに投入される可能性が出てくるからだ。
そこで勇者は足止めを食らう事になる。
外に出てくる余裕がなくなる。
少なくとも、喪失した兵力が補充されるまでは動きが制限される。
その補充も現時点では難しいだろう。
多大な損失を被った直後である。
その上で更に兵力を失ったとあれば、回復は難しい。
下手したら何年間か行動不能になりかねない。
各地で戦線の縮小をしてる最中である。
そうしなければならないほど戦力が不足してる。
そんな状況で戦力の回復など出来るわけがない。
(あと何回かやって、もう少し敵を削っておこう)
敵の足を止める為にも、それくらいはやっておいた方がいい。
一方面で何千という兵力が削られれば、敵も当面の攻勢を断念するしかないはずである。
その為にもあと何回か攻撃を繰り出さねばならない。
(それくらいの余裕はあるか)
能力を使って周辺に散らばってる犯罪者とゴブリンを探す。
検知できる範囲にはまだまだ元気な連中が残ってる。
そいつらをまとめて突撃させれば、敵をもう少し削る事が出来る。
(もう少し頑張ってもらうか)
思い立ったが吉日。
そのまま手近にいる連中のところへ向かう。
そこから兵隊を集めて、敵に突っ込ませる。
あと少しだけ敵を減らすために。




