276回 面倒な勇者という存在への、ささやかな対抗手段 6
「こいつら……」
イエル側の指揮官も目の前の敵に怖じ気づく。
倒しても倒しても、それを気にする事無く前に進んでくる。
その分後退する事になる自分達の軍勢。
倒されていく自軍の兵士達。
ひたすら前に進んでくる敵に、防戦に回った彼らは押されていた。
そこには駆け引きも何も無い。
「ええい、怯むな!
敵は少数、こちらより少ないぞ。
囲んで確実に削っていけ」
檄を飛ばす。
ここを突破されるわけにはいかないのだ。
相手の勢いに流されるわけにはいかない。
それを聞いた兵士達も、囲んだ敵を撃退するために踏みとどまる。
そうして出来た接触面で両者の血と肉が飛び散る。
「そうだ。
前に進め、敵を倒せ!
女神イエルもご覧になってるぞ」
指揮官も兵士達をたきつけて、戦闘を進めていく。
そのまま延々と続くように見えた戦闘。
だが、終わりはやってくる。
攻め込んだ7000程の軍勢。
それらは進むごとに数を減らしていく。
敵の陣地に踏み込んだはいいが、そこで彼らの足は止められる。
そこで硬直状態に陥り、少しずつ数を減らされていく。
最終的に彼らは包囲されて殲滅されていった。
乗り越えた塀から数十メートルも進む事もなく。
だが、全くの無駄死にというわけではない。
少なくない数の敵を道連れにした。
死亡者、約500人。
負傷者はおおよそ1000人ほど。
これだけの数を道連れにした事で、敵に負担を与える事は出来た。
その補充のために、手元の兵力を更にやりくりする事になる。
「上出来、上出来」
様子を千里眼で見ていたユキヒコは満足していた。
思った以上に奮闘してくれたおかげで、敵を削る事が出来た。
「この調子で行ってみるか」
必要なのは敵を圧迫する事。
敵の数を減らす事。
その穴埋めの負担を強いる事。
その為なら手駒が壊滅しても構わなかった。
なにせ犯罪者である。
そして、できの悪いゴブリンである。
いなくなっても困らない。
むしろ、生きてる方が問題だ。
今はまだいい。
敵との間に放逐する事で自然と障害物になってくれる。
だが、今後敵を倒して進軍するとなると、それが邪魔になってくる。
手に入れた地域に居座られると、山賊や盗賊になって襲いかかってくる。
それはどうにかして避けたいものだった。
そうならないように、今回のように使い潰した。
この際、損失など考慮する必要は無い。
どのみち壊滅させるつもりなのだから。
だが、その際にどれだけ敵を巻き込んでくれるのか。
それが気がかりだった。
出来るなら少しは巻き込んでいってもらいたいのだが。
途中で逃げる可能性もある。
なので、効果が出るかどうかは分からなかった。




