274回 面倒な勇者という存在への、ささやかな対抗手段 4
その間に異種族連合は堀に到達。
そこで先頭に立つ大盾が左右に分かれていく。
後ろから、麻袋を積み上げた荷台持ちが前に出る。
それらは空の堀にのせていた麻袋を放り込んでいった。
それが終わると、後ろにまわり、次の者に交代する。
さほど深くは掘られてなかった堀は、次第に埋まっていく。
だが、さすがにそこまでくれば、弓で狙いやすくもなる。
大盾はいまだに掲げられてるが、土入りの麻袋────土嚢を放り込む際には姿をさらす。
その瞬間を狙い、矢が放たれていく。
さすがに、比較的距離が近い事もあり、矢は次々に当たっていく。
そうなると異種族連合側もやり方を変える。
一気に土嚢を放り込むのではなく、一つ一つ手で放り込んでいく。
その間、作業者達を大盾で守っていく。
そうなるとさすがに矢も阻まれる。
作業の安全が確保されたところで、堀埋めは続行されていった。
少しずつではあるが、確実に埋まっていく堀。
それを見て守備にあたっていた者は幾分恐怖をおぼえた。
地味だが着実にこちらに迫ってくるのを見て。
だが、黙って見ているわけでもない。
準備させていた兵器を動かしていく。
「準備は?」
「いつでも」
「ならば、放て!」
指揮官の大声。
それに従い兵器から石が放たれる。
投石機。
大きな石を大量に投射する兵器。
面を制圧するのにうってつけのそれが、人の頭ほどの重さを持つ石を放っていく。
一度に大量に放たれた石は、拡散しながら目標値点に向かっていく。
精密さは全くないが、そんなものは必要ない。
広範囲に広がる石は、その場に居た者達に容赦なく襲いかかる。
標的になった地点にいた者達は、飛んできた石に吹き飛ばされていった。
狙われた犯罪者とゴブリン達はたまったものではない。
人の頭ほどもある石など、まともに受けたら吹き飛ばされる。
頭にあたれば即死もありえる。
そうでなくても、骨が折れ肉がひしゃげる。
放物線を描く数々の石は、自身の重さと放たれた時の勢いに重力が加わる。
その威力は十分に人を殺す事が出来る。
そんなものが飛んできて無事でいられるわけがない。
飛来物を防ぐ大盾とて役に立たない。
矢を防ぐ事は出来ても、石まではじけるわけがない。
いや、矢とて貫通するのだ。
ただ、大盾に隠れる事で狙いをつけづらくし、命中を妨げていただけである。
盾ごと粉砕されたらどうしようもない。
そして、盾が破壊された事で、その後ろに隠れていた者達があらわになる。
「今だ!」
指揮官の号令により、弓が攻撃を再開する。
姿をあらわした者達が次々に狙われていった。
それでも怯む事無く、犯罪者達は土嚢を投げ込んでいく。
ここで引き下がっても後が無い。
背後に控えている者達が後退を許さない。
見える位置にはいないが、どこかに異種族連合の軍勢が潜んでいる。
それらが撤退する者を容赦なく切り捨てる。
そのように通達されていた。
生き残るためには、前に進んで敵を倒すしかない。
それはある程度真実である。
異種族連合/魔族は追放同然に前線に押し出した連中が戻ってくる事を許さない。
防衛戦である陣地群までやってきたら容赦なく切り捨てる。
また、戦闘に出した連中がろくに戦いもせず撤退しないように、背後に後退阻止の部隊を置く。
督戦隊と呼ばれるものだ。
士気の低い、というより全くない部隊を無理矢理戦わせる為の部隊である。
こういった者達も時には必要になる。
それらを犯罪者とできの悪いゴブリンたちは警戒していた。
しかし、今回の場合に限っては杞憂といってもよい。
8/9まで投稿済み
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