273回 面倒な勇者という存在への、ささやかな対抗手段 3
押し出されるよう敵陣へと向かっていく一団。
それらは粗製濫造された木製の大盾と、手槍。
それとスコップを持って進む。
大盾はかがんだ人間一人を隠すほどの大きさがある。
全員分はないが、それなりの数は用意されていた。
それと、ほぼ全員に行き渡るほどのスコップ。
麻袋はそれより更に多い。
それを持って彼らは、頭の中にたたき込まれた指示通りに進んでいく。
そんな彼らが敵陣にたどり着いたのは、それから四日後。
途中、必要な準備のための作業が必要だったので少しばかり遅くなった。
そんな彼らの登場を、イエル側も見つけた。
敵襲を告げる鐘が鳴り響いていく。
犯罪者とゴブリンは、そんな敵陣に突入していった。
突入と言っても雄叫びあげて突っ込むわけではない。
むしろ、それは遅々としたものだった。
慎重に行動してる為ではない。
全員が何らかの荷物を持ってるからである。
最前列は大盾を構えて。
それに続く後列は、大盾と棒を使って荷物をのせられるようにしている。
その上に土を入れた麻袋をのせている。
それらを守るように更に大盾がかかげられていた。
一列になって行進する彼らの姿は、異様なものだった。
普通は遠距離からの弓矢の攻撃を警戒する。
だから、なるべく早く城壁や陣地に飛びかかるものだ。
それが今回は一列になってゆっくりと動いている。
集結したイエル側の兵士達も何事かと驚く。
それも一瞬であるが。
「何をしている!」
指揮官が大声をはりあげる。
「あれだけゆっくり動いてるのだ。
狙いなど簡単につけられるだろう。
さっさと射貫いてしまえ!」
もっともな話である。
ゆっくり動いてるならさっさと狙いをつけて射ればいい。
「しかし、もしかしたら何かの策かも──」
「そう思わせるのも策の一つだ。
なに、本当に何か考えがあるなら、その時に対処すればいい。
今は接近してくるあいつらを射貫け!」
「分かりました」
言われてみればもっともな事を聞いて、弓を構えた者達が射撃を開始する。
しかし、そうして見て分かったが、これが非常にやりにくい。
大盾で体の大部分が隠れてるのだ。
隙間もあるが、そこを狙って当てるのは難しい。
いくら訓練を積み重ねた兵士といえども、そうそう名人芸のような事は出来るわけがない。
それでもなんとか狙って矢を放つ。
それらのほとんどは盾にあたるか、地面に当たっていく。
「撃ち方、やめ!」
指揮官が指示を飛ばす。
それに従い弓による攻撃が止まる。
「さすがにこの距離では当たらんか。
もう少し引きつけるぞ」
「分かりました」
「それとな」
「はい?」
「用意しておけ、あれを」
「あれ……ですか」
指揮官が指す方向に目を向ける。
そこには、一台だけ存在する兵器があった。
それを使えば確かに敵を粉砕することも出来るだろう。
「分かりました、すぐに準備をさせます」
「急げよ」
迫る敵への対処が進められる。




