271回 面倒な勇者という存在への、ささやかな対抗手段
そんな中でユキヒコは、無人地帯へと向かっていく。
異種族連合/魔族とイエル側の前線の間にある空間。
緩衝地帯として誰も立ち入らなくなった場所。
そこには解き放った犯罪者やできの悪いゴブリンが屯している。
野垂れ死んでもいいと放置してる連中だが、今はそいつらに用があった。
手始めに近くに居る連中のところへと向かう。
居場所は能力を使えばすぐに見つける事が出来た。
異種族連合側の比較的近くに居た者達だ。
つまり、ここにいる連中の中では勢力の大きい部類の連中だった。
彼らとて馬鹿では無い。
イエル側よりも異種族連合側の方が安全なのは理解している。
近づいただけで攻撃してくるイエル側より、まだしもマシというのは肌で感じ取っている。
そんな連中の所へと向かう。
「これから仕事をするからついてこい」
接触した連中にそう伝える。
市街を拠点としてた連中はそれを聞いて大声で笑った。
「何を言い出すかと思ったら」
「何言ってんだ」
「なんで俺らがお前に?」
そんな声がそこかしこからあがる。
彼らからすれば、ろくに支援もせず今まで放っておかれたのだ。
いきなり来て従えと言われても納得出来るものではない。
また、ユキヒコが一人で来てるのも、大きな態度に拍車をかけさせていく。
「さっさと帰んな」
一人がそういってユキヒコを押しだそうとした。
その男にユキヒコは、容赦の無い鉄拳をくらわせた。
能力を解放して。
その瞬間、ユキヒコの能力値は一万を数えた。
人間の通常の数値の100倍。
そんな力で拳がたたき込まれたのだ。
無事で済むわけが無い。
下から突き上げた拳は、寄ってきた男の顎をとらえ、体ごと吹き飛ばす。
男はそのまま空に舞い上がり、何百メートルかの高さにまで持ち上がってから落下した。
地面に激突するときに『ぐしゃり』といった嫌な音がする。
その高さから落ちたのだから無事ではいられない。
全身の骨や肉、内臓がひしゃげている。
それ以前に、顎を突き上げられた時点でもう終わっていた。
顎が粉砕されてるのは言うにおよばず、つながってる首が頭蓋骨を突き上げられる際に粉砕されている。
脳も衝撃で揺さぶられて意識を吹き飛ばされていた。
その時点で致命傷である。
地面への激突は後押しにすぎない。
その落下死体の意味を、周りの者達が理解するまで時間がかかった。
意味が分かっても受け入れられずに立ち尽くしている。
だが、
「同じ事を二度も三度も言わすなよ」
ユキヒコの声に我にかえる。
「仕事をするからついてこい」
逆らう者はいなかった。
それを皮切りにユキヒコは、手近な所に居る連中に接触していく。
まずは従えた連中の下部組織。
数十人程の規模を誇っていたこいつらには、数人から十数人の集団になってる配下がいる。
それらを巡って、一つずつ吸収していく。
それから他にもあった組織の所に出向き、それを従える。
あとは同じ事を繰り返していくだけ。
途中、ゴブリン達も含めて配下にして、総勢7000人ほどの集団を作る。
そこまで出来上がったところで、軍団作りを停止する。
他にもまだ何人かいるのだが、全部を集めるつもりはない。
少しは残しておかないと、敵が出てきた時に守りに使う捨て駒がなくなる。
その為、この人数でとりあえず切り上げる事にした。




