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27回 思い出────とっくにすべては終わってた

 野次馬・出歯亀はどんな所でも発生する。

 それは相手がどんな者でも関係がない。

 これが勇者と聖女であってもだ。

 むしろ、そうであるならばなおの事。

 話題性があって興味を引く対象だ。

 これ以上ない程好奇心をそそる。



 そういった者達の秘め事や睦み事。

 あるいは醜聞や猥談。

 そういった者に興味を引かれるのも、人のどうしようもない性分だろう。

 娯楽の少ないこの世界、危険や処罰を覚悟でそれらを覗こうという者は出てくる。

 それに協力する者も含めて。



「……大丈夫か?」

「……ああ、行け」

 見張りをしてる者達に幾ばくかの謝礼を払っていく。

 そうして侵入していくのは、設置された豪奢なテント。

 勇者と聖女の宿泊場所だ。



 そこで何が行われているのか。

 何がなされてるのか。

 どういう風にしているのか。

 そういった事を知りたいという、好奇心とスケベ心溢れる輩が集っていく。



 こんなの、見つかれば厳罰ものだが、気にする素振りはない。

 いかに厳格な規律を求められる組織であっても、全体にそれを施す事は出来ない。

 どうしても綻びは発生する。

 こういった覗き行為もその一つだった。

 その為に数人の有志が立ち上がった。



 実際、テントの警備にあたってる者が、賄賂をもらって素通ししている。

 こういった事が今まで繰り返し行われてきた証明だ。

 特にもめ事にならなければ、こうした事も恒例行事のようになっている。

 見られる方はたまったものではないだろうが。

 露見しなければ追求される事もない。

 褒められたものではないが、これも社会の通例であろう。



 馬鹿丸出しであるが、こういう馬鹿はどこにでも発生する。

 そして、馬鹿は恐るべき行動力を示す。

 やろうとしてる事が成功するかどうかなど考えない。

 いや、考える事はあるだろう。

 しかし考えて、失敗する可能性が高いと分かっても、やりたい事を優先する。

 そして実行する。

 ひたすらにガムシャラに。

 そんな馬鹿が、今ここにいた。



「こっちか……」

「たぶん……」

「テントの作りからして、こっちでいいはずだ……」

 事前に手に入れていた情報から、勇者と聖女が寝泊まりしてる場所を割り出している。

 テントと言っても、中でいくつもの部屋が作られた大型のものだ。

 それこそ、農村にある小さな家くらいの大きさはある。

 目的の場所を探るには、事前の情報収集が不可欠だった。

 職業柄、彼らはそういった事を熟知し、習熟している。

 培った経験の無駄遣いとは言うまい。



 その情報をもとに先へと進んでいく。

 想定通りならば、そこでアレヤコレヤが行われているはずだった。

 それを目にとらえようと愛すべきお馬鹿さん達は進む。

 テントの近くで静かに気配を殺しながら。

 そんな彼等は、情報通りに存在していた綻びを目にする。

 これも事前の情報にあった通りだ。

 内部に入れるように、ちょっとした工作をしておくと。

 そんな事に高めた能力を用いるのはどうかと思われるだろう。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 顔を見合わせ、無言でその部分を指し、互いに頷きあう。

 テントを固定するために地面に打ち込まれた杭。

 そのうちの一つ、そこだけは簡単に刺さってるものがある。

 たやすく引き抜けるようにだ。

 それを引き抜けば中に入れるようになる。

 やってきた者達は、躊躇う事無くそれを外し、中に入っていった。



 複数のテントが通路状のテントで連結されてる大型テント。

 話には聞いていたが、ちょっとした住居のようになっている。

 屋外にあるとはとても思えない。

 その中に入った者達はそこから更に目的地へと向かっていく。

 頭の中に叩き込んだ内部構造図に従って。

 彼等はゆっくりと静かに進んでいった。



 こっちでいいのか、という疑問はあった。

 情報が間違ってる可能性も否定出来ない。

 それでも彼らは音を立てず、己を存在感を潜めていく。

 行われてるであろう者を目にする為に。

 そんな事に磨いてきた潜伏技術を使うものなのかは問うまい。



 程なくその方向が正しかったのだと知る。

 進んで行くごとに分かりやすい声が聞こえてきたからだ。



 くぐもり湿気った声。

 静かなテント内にあって、それは予想外に大きく聞こえてきた。

 それを聞いた潜入者達は興奮していく。

 互いに頷きあい、声のする方へと向かっていく。

 何をしてるのかが簡単に分かる場所へと。



 その中にあってユキヒコは、感情が冷めていくのを感じていた。

 他の者達のように高ぶったりはしない。

 感情が爆発して激昂したりもしない。

 ただ、全てが沈み込んでいくような。

 波も立たない平坦な水面のような。

 そんな心境に陥っていった。

 決して冷静なわけではない。

 怒りや憤りは確かにある。

 だが、それが増大すればするほど、気持ちは死んでいった。



(やっぱり)

 と思う。

(そうなっていたか)

 予想通りだった。

 そうでなければいい、という安易な期待など捨てていたつもりだった。

 しかし、実際に事実をを示されてる今、そんな覚悟すらも甘かったと思い知らされる。

 自分の目で確かめるというのは、それほどまでに大きな衝撃をもたらした。

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