269回 対抗手段があっても面倒なのが変わるわけではない勇者という存在 4
それからタツハルは迎えに来た教会の者達に連れられていった。
最寄りの教会に。
そこからこの近隣では中心となってる大きな教会に。
そこでタツハルは様々な説明を受ける事になる。
イエルの勇者に選ばれた事。
その為の訓練がある事。
やがて聖女も見つかれば、共に行動する事になる事。
そして、イエルがもたらす使命があるだろうという事。
それらを聞いたタツハルは、迷うことなく勇者としての訓練を受ける事にした。
それから数ヶ月。
最低限の知識と戦闘訓練。
それと、野外活動の仕方など。
勇者として行動するのに必要な知識や技術を身につけていった。
本来ならば数年はかかるだろうそれらを、奇跡の助力もあってかなりの短期間で身につける事が出来た。
聖女とも合流し、勇者として活動していく下地は出来上がりつつあった。
そんな時にタツハルは、再びイエルの声を聞く。
『タツハル、見事です』
それはたまたま一人になった時の事だった。
突如耳に入ってきた声。
それが誰のものなのかはすぐに分かった。
すぐに礼拝の姿勢を示す。
「我らの女神イエル────!」
自分に救いをもたらした存在に頭を下げる。
そんなタツハルに、
『危機が大きく成長しようとしています。
今はまだ小さく表に出ない程ですが。
しかし、やがて災厄となって襲いかかるでしょう』
「それは……!」
『見過ごすわけにはいきません。
これを討ち滅ぼし、世に福音を』
「おおせのままに」
『力を授けます。
あなたの道を切り開く術として』
その言葉と同時にタツハルは奇跡を授かった。
どんな効用があるのかという情報と共に。
そこに崇拝する女神の意思を読み取り、あらためて礼拝をする。
「全ては女神イエルの導きのままに」
そう言って伏すタツハル。
彼は与えられた使命に従い、奇跡を用いて事にあたろうとしていた。
そんな彼は気づいてない。
女神と崇拝するイエルが一方的に事を言い渡してきてる事に。
言葉を交わしてると思っているが、相手は一向にタツハルと会話してない事に。
そして、与えられた使命と奇跡、それを用いてすべき事。
それがどれ程困難なものなのか。
実行すればどれほどの苦難になるのか。
その事にも気づいてない。
ただ、与えられた指示や使命を全うする事。
それだけを考えていた。
彼の頭はそれらを考える事も、疑問に思う思考がなかった。
あるのは、まともに動けなくなっていた自分を救ってくれた存在への恩義。
服従と言っても良い感情とそれに追随する思考だけだった。
それ以外には何もない、それ以外について思いをはせる事も。
頭は既に定まった方向についてどうするかを考えるだけに使われている。




