261回 使えるようになった新たな力を使って出向いた先で、不穏な話を聞くことに 2
「けど、そんな上手くいくか?」
「分からない。
時間がたてば、やっぱり訝しく思う奴も出てくるだろう。
けど、当分なだめる為だったらそんなに問題は無い」
とりあえず怯えてる連中を落ち着かせる事が出来ればよい。
その為ならある程度の嘘など平気で吐く。
それが政治というものでもある。
「そういう情報工作かもしれない。
なんせ、新たに出てきたっていう勇者については、他に何も情報がない。
どこの出身なのかとか、なんて名前なのかってね」
それが分からないから存在を疑う事になる。
大々的に宣伝するなら、名前や似顔絵などが出回ってもおかしくない。
ただ、それもある程度時間が経ってからというのも確かだ。
「けど、訓練が終わるまでお披露目する事はないだろうし」
それが理由である。
勇者や聖女としてある程度やっていけるまでは、情報は基本的に秘匿される。
未熟な状態で前線に出すわけにはいかないからだ。
お披露目にしろ出陣にしろ、ある程度の教育が施されてからというのが普通だ。
なので、まだ勇者があらわれたという初期段階で情報が出てこないのはおかしな事ではない。
「けど、もう一つ気になってる事があってな」
「なんだ?」
「この勇者登場の話。
一人だけじゃないんだ」
「なに?」
「何人もいるみたいなんだよ、勇者が」
それが今回の話の異様なところだった。
勇者の登場はそれほど頻繁に起こるものではない。
確かに何人もいるので唯一無二の存在というわけではない。
だが、一度に何人も登場するというのは異常である。
少なくとも二人が知る範囲で、一度に数人の勇者が生まれるというのは初めて聞く。
「何かあったのかな」
「分からん。
だけど、お前が勇者を倒した事と、もしかしたら関係があるかもしれん」
「まさか。
さすがにそれはないだろ」
勇者を倒したのは確かだ。
しかし、それが理由で勇者がいきなり何人もあらわれるとは思えない。
「そんなにあいつらが切羽詰まってるとは思えないけど」
確かに戦線の縮小はせざるえなかっただろう。
その為に、民を避難させねばならなくなった。
そういった痛手を受けたとはいえ、そう大きなものとは思えない。
国全体・魔女/女神イエルの勢力圏全体から比べれば。
対応は必要だろうが、勇者が量産される程の事なのかと思ってしまう。
ただ、知りうる情報を結びつければ、その可能性もあると考えもする。
戦力が足りなくなってるのは事実だし、早急な穴埋めが必要だ。
その為には、単体で強力な戦力になる勇者は便利なものである。
一時に何人も登場してもおかしくはない。
ユキヒコほどでないにしても、勇者の戦闘力はかなりのものだ。
与えられる奇跡にもよるが、数百数千という敵を倒すことすらやってのける。
そういった者を何人も作る事で、足りない兵力を補う事は出来るだろう。
ただ、それを行う魔女/女神イエルの負担がどれだけのものになるのか。
それが気になる。
もし勇者作成がそれほどの苦労でもないなら、今後もこの調子で勇者があらわれるだろう
。
だが、これが結構な負担ならどうなるか?
勇者を作った事で動きが鈍くなる可能性がある。
人々の方はともかく、イエルの介入は減るかもしれない。
少なくとも、神官らにもたらす奇跡の授与は少なくなるかもしれない。
その分、敵全体の活動が減る可能性はある。
それもあるから、一度に大量の勇者が発生するというのが考えにくい。
何らかの情報工作ではないかと疑う理由になる。
民衆の動揺をおさえるための嘘なのか。
はたまた本当にそれなりの数の勇者が発生したのか。
現時点では分からない事が多い。
(いっそ中に入って調べてみるか?)
そうも思う。
今のユキヒコなら誰にも悟られる事なく敵の中枢まで入り込める。
そうした方が簡単に相手の中核を破壊出来る。
しかし、それをしないのは今後を考えてだ。




