260回 使えるようになった新たな力を使って出向いた先で、不穏な話を聞くことに
「なるほど────」
話を聞いたソウスケは、納得をして頷く。
「だけど、いきなり目の前に現れるのはやめてくれ。
心臓が止まると思った」
「ごめん」
たしなめるような言葉に、ユキヒコは素直に頭を下げる。
「出来るだけ気をつける。
事前に念話くらいは入れるようにするから」
「そうしてくれ。
急ぎの時は仕方ないけど」
転移を使う際の取り決めが、こうやって作られていく。
それもこれも、ソウスケと連絡をとろうとしたからである。
より正確に言うなら、ソウスケからの緊急連絡を受け取ったからだ。
かねてより設置していた山越えのゴブリン伝令通信。
これによりユキヒコの所に連絡が入った。
その内容を見て、ユキヒコ自身がソウスケの所に転移していった。
直接顔を合わせて話を聞こうとしたのが理由だ。
また、ついでだから転移の練習でもしようとした。
それがソウスケを、
「うわああああああ!」
と驚かせる事になり、現在に至る。
「まあ、それはいいけど」
ユキヒコへの注意を終えたソウスケは、本題の方に入っていく。
「俺も聞いた話だからなんとも言えないけど。
あちこちで新しい勇者が登場してるらしい」
それがソウスケの得た情報だった。
新しい勇者。
その言葉はユキヒコの警戒心を呼び起こす。
「どういう事だ?」
尋ねる声にソウスケは知り得た情報を伝えていく。
「何でも、あちこちでそういう事が起こってるらしい。
行商先でそんな話を聞くことが多くなった」
その情報をもとに、ソウスケは出来るだけ出所に向かうようにした。
本当に勇者が誕生したのか。
それとも教会や国が流した偽情報なのか。
それを確かめる為だ。
既に勇者が倒れたという話は出回っている。
ある程度の情報制御はされてるが、どうしても漏れるものは漏れる。
「大量の難民も出たからな」
それも情報が漏洩する原因になった。
難民のほとんどは目撃者だ。
たとえ勇者と聖女が倒れるところを見て無くても、異種族連合/魔族に自分たちがやられた記憶はある。
それだけでも十分話題になる出来事だ。
それと勇者・聖女壊滅の話は容易に結びつくだろう。
一つの都市が壊滅するほどの損害を受けるならば、勇者や聖女とてひとたまりもないだろうと。
それが噂としてあちことに伝わっていくのは当然といえた。
そんな話を聞けば、民衆は恐怖に襲われる。
特に壊滅した地域の近くならば。
次は自分たちではないかとおびえるのは当然だ。
それを憂慮した指導者達が、民心をなだめるために情報操作する事も考えられる。
一番の宣伝は、新たな勇者の誕生・登場であろう。
それにより、人々に希望をもたせる。
たとえそれが嘘でも、一時しのぎにはなる。
8/5まで投稿済み
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