256回 質が量を上回ることはない 4
「やってみると、思ったよりも上手くいってる」
イビルエルフは素直な感想を伝えていく。
率直な評価であった。
「選別する事でゴブリンもずいぶん素直になった。
クロスボウの扱いもだんだんと上手くなっている。
命中率の高い者に射手を任せる事で、攻撃力も確保出来る」
「なら、しばらくはこの調子でいこう」
ゴブリンの戦闘力が上がってるのは良いことだ。
今後の戦闘は少しは楽が出来るだろう。
ただ、それだけではどうにもならない。
「接近戦の方は?」
そちらの訓練もさせている。
そこそこ出来そうなゴブリンを集めて。
しかし、これは射撃ほど上手くはいってない。
「さすがにそっちはな。
一応、三人一組で動くようにはさせてるが」
「駄目か?」
「難しいな。
どうしても怯むから攻撃にしろ防御にしろ一歩遅れる。
それで当たり負けする事が多い」
三対一ならば勝機はある。
しかし、元来臆病で小心者なゴブリンである。
正面からぶつかっていけばどうしても怖じ気づく。
それが隙になって粉砕される事が多い。
「訓練の段階でこれだからな。
実践ではとてもとても」
「さすがに無理か」
ユキヒコもこればかりはどうしようもなかった。
「ただ、ゴブリンだけならどうしようもないが。
他の種族と一緒ならどうにかなる」
「ほう?」
「近くに他種族の戦闘部隊がいれば、意外と勇敢になる。
何かあれば助けてくれると思うからかもしれん」
「なるほど」
実際に助けが入るかどうかは関係がない。
それがあると思えるかどうかが大事なようだ。
「特に鬼人と一緒にさせると効果的なようだ」
鬼人は力が強く、前線を構築する部隊としては最適な種族と言われる。
しかし、身軽な動きは苦手で、動きに隙が出来る事も多い。
そんな鬼人族部隊の周囲にゴブリンを配置していると、その隙を埋める事が出来る。
ゴブリンも鬼人の援護が受けられる可能性があると思えば、それなりに善戦する。
「訓練でだけど、そういう傾向があるのが分かってる。
組み合わせて使えば、ゴブリンでも最前線を任せられそうだ」
これは意外な発見であった。
ゴブリンは雑兵として用いる事が多く、他の種族と共闘する事があまりない。
特に前線を構築する際には、その数だけを頼みとしてゴブリンだけで配置される。
他の種族は、それらが前線を支えてる間に敵に切り込む。
あるいは前線の穴を補う。
そういった役割で戦ってきた。
実際、戦闘力の差などにより、他種族とゴブリンを並べて配置する意義がほとんどない。
使い捨てのゴブリンと混ぜて一緒に倒れたら意味が無いと考えられてきたからだ。
だが、互いに援護し合う事でゴブリンの士気が上がるなら。
これからの戦闘の仕方が変わってくる。
鬼人族部隊の周囲にゴブリンを配置して一部隊とする。
そういった部隊を配置していく事で戦闘力が上がるなら、今後の戦闘は変わってくる。
数だけを利用した肉の壁でしかなかったゴブリン。
それが戦力になる。
それは異種族連合/魔族にとって大きな変化になる。
(虎の威を借りる狐か)
そうも思う。
実際、その通りなのだろうとも。
自分たちだけでは安心出来ない。
後ろ盾があってようやくやる気が出てくる。
自立性や自発性に欠ける。
だが、それでやる気が出るなら、今までより成果が出るならそれでいい。
だいたいにして、ゴブリンに限らず他の種族とてそういう傾向はある。
自分でやる、最初の一人になる勇気のある者はほとんどいない。
大半が誰がやった後に、あるいは誰かが後ろ盾になればやってみようという者が多い。
ゴブリンはそれが他の種族よりはっきりしてるだけなのだろうとも考えられた。
それも能力の低さによる死にやすさ故かもしれない。
能力が低いから、迂闊なことは出来ない。
どうしても臆病なほどの慎重さが必要になる。
そう考えれば、後ろ盾や寄らば大樹の陰といった傾向もやむをえないものではあった。
そして、それが分かれば使い方・利用方法も見つけやすくなる。
今回はその為の一里塚と言えた。




