254回 質が量を上回ることはない 2
強力な魔術も、あればあるに超したことは無い。
やはり一撃で複数の敵を倒せるのは大きい。
しかし、どれほど強力な魔術でも、一度に倒せるのは十人あまり。
よほど密集してないかぎり、20人も倒せない。
そんなものにどれほどの意味があるのか。
数人くらいで探索に出るなら話は別だ。
敵も似たような数であれば、魔術師の攻撃力がある分有利だろう。
だが、戦場という数百人、そして数千・数万という数がぶつかり合う場所で、それだけの敵を倒してもさほど大きな差にはならない。
もちろん、そういった戦争に大量の魔術師を投入すれば成果は出るだろう。
だが、同時にそういった魔術師を失う危険も大きくなる。
戦況や戦局を左右するにしても、それでは割に合わない。
それもこれも、それだけの力を持つ魔術師は少ないから起こる問題だ。
魔術を使える者がそもそも少ないし、使えるようになるまで数年の修行が必要になる。
それも、求められる威力が出せる者に限っての話。
つまり、ある程度の素質がなければ、十分な威力の魔術は使えない。
この事実が魔術師の希少で貴重なものにしていた。
だが、そうでないならば。
そこまでの強さを求めないならば?
そこそこの事を、それなりに出来ればいいのならば?
魔術師に求める事を変えてみたら?
その結果が、即席魔術師である。
多くの魔術を使えなくてもよい。
一種類でも求める効果が得られるならば。
相手を倒すほどの強力な魔術でなくてもいい。
一瞬でも足止めできるなら。
魔術を使える回数がそれほど多くなくてもいい。
交代要員をそれだけ用意し、魔術が使えるまで回復する時間を得る事が出来るなら。
そう考えてあらためて人選をしてみると、候補者は莫大な数にのぼっていく。
魔術に求める素質や素養がそれほど高くなくても良いからだ。
極端な話、ゴブリンでも十分につとまる。
そして、ゴブリンなら大量にいる。
それらを魔術要員に出来るなら?
戦闘のやり方が一気に大きく変わる。
早速この案は実行にうつされていった。
とはいえ、さすがに最初は誰も賛同しなかった。
今までの魔術師のありかたとかけ離れていたからだ。
どれほどの効果があるのかも分からないというのもある。
何より、大量に魔術師が発生すれば、今までいた魔術師の地位がおびやかされる。
そういった懸念は既存の魔術師達は抱いた。
それでも無理矢理強行していき。
即席魔術師の育成は始まった。
おかげでそこらの一般兵などもそこそこ魔術が使えるようになっていく。
素養が低いものはともかく、一定水準以上の者ならばある程度の事が出来るようになった。 何より大きかったのは、ゴブリンにもそれなりの使い手が生まれた事である。
もともと数の多かったゴブリンである。
魔術が使えるようになる者もそれなりにおり、その数は膨大と言ってもよいものになる。
もちろん、一撃で敵を倒すような力は無い。
しかし、敵を一時的に行動不能にするくらいの能力は手に入れた。
それらがどれほどの戦果をもたらすのかは分からない。
それでも、今までとは違った戦い方が出来るようにはなった。
まだ未知数ではあるが、この成果は大きな戦果につながると考えられていた。




