250回 寄り道先、こちら側で最も信頼出来る者と 4
「まずは教育を頑張ってくれ。
あと、子供も」
「もちろん。
どっちも手はぬかない」
言いながら笑う二人。
それからユキヒコは、部屋の中のベッドに転がされてるものに目を向ける。
「こいつらも役に立ってるようだな」
「ああ」
頷くグゴガ・ルもベッドに目を向ける。
そこには、縛られた二人の聖女が倒れている。
叫び声と舌をかむのを防ぐための猿ぐつわをはめられながら。
捕らえられ、聖女となった女である。
一人は西柴フユキ。
もう一人は香奈月ユカリ。
そういう名前をもっていた元領主令嬢と、武家出身の義勇兵である。
しかし、ここではそうした名前は不要である。
過去の地位や経歴も。
名前のかわりに管理番号がつけられ、経歴のかわりに利用具合で価値が決まる。
ただ、元々それなりの地位であった為か、栄養状態などは良い。
見た目も悪くはなく、人気は高い。
加えて、ユキヒコの見立てで必要とされる能力も備えていた。
グゴガ・ルの相手をさせるには丁度良いくらいには。
「気に入ってくれてればいいんだけど」
一応、見立てておすすめしたのはユキヒコである。
使い勝手が悪いとなると申し訳ない事になってしまう。
幸いにもグゴガ・ルからは文句は無い。
「ああ、最高だ」
提供された聖女に満足をしていた。
「ただなあ……」
「どうした?」
「いやな、ここまでしてくれて文句を言うのもなんだが」
「なに、気にするな。
こっちが押しつけたようなもんだ。
要望があれば聞くよ」
「すまんな。
いや、本当にこれには文句は無いんだ」
言いながら転がる二人に目を向ける。
その顔に不平や不満は確かにない。
「けど、やっぱりな。
どうしても同族の方がいいなあって思っちまうから」
「なるほどね」
それにはユキヒコも納得する。
どれほど美しくても他種族だと今ひとつのめりこめない。
どうしても同族の方がいいと思うものだ。
これは好みの問題もあるが、種族の違いによる影響でもある。
そこはどうしても覆すのが難しい。
ユキヒコとて、エルフやドワーフ、小人など異種族の美人よりは、やはり人間族の方がいいと思う。
それはイビルエルフや鬼人、獣人などの女を見ても同じだ。
吸血族はまだ見たことがないが、それでも同じような感情や感想を抱くだろう。
よほど突き抜けた美人と巡り会わない限り。
ゴブリンであるグゴガ・ルは、出来るならゴブリンの方がいい。
そう感じてるだけの事である。
それを悪いとは思わない。
むしろ当然の要望である。
「出来るなら、連れてきてやりたいけど」
求めるなら願いはかなえてやりたい。
ただ、さすがに聖女のように簡単に与えるのは難しい。
道具として扱うわけにはいかないのだから。
「いっそ、見合いでもするか?」
そんな事も切り出す。
「相手がいればな」
肩をすくめての返事。
「いるだろ、これだけの功績をあげれば」
「いや、そんな簡単でもない」
そう言ってグゴガ・ルが語るゴブリンの事情。
それは初めて聞く事だった。




