249回 寄り道先、こちら側で最も信頼出来る者と 3
とはいえ、子作りも理由の一つではある。
グゴガ・ルほどの成長を見せた者の血を絶やすのももったいない。
そうでなくても、もともと優れた資質を見せていた。
そういう者にはなるべく子供を作って繁栄してもらいたかった。
子供も優秀であるとは限らないが、そうである可能性は高い。
出来るだけそういう者を増やし、全体の向上をはかりたかった。
だからこそ、戦功のある者には子作りに励めるようつとめてもいた。
加えて、後方に下げる表向きの名目として、新人の教育もやらせている。
これにも名目以上の理由はある。
新人に出来るだけ実践的な知識や技術を伝えてもらいたかった。
そのためにも経験者も必要になる。
出来るだけ優れた者が。
それにはグゴガ・ルがうってつけだった。
戦場を駆け巡ってきた経験。
そしてゴブリンの中ではまともな人格。
こういった人材はなかなかいない。
そこを見込んでの事でもあった。
そして、新人を選別してまともな者を残すようにさせている。
頭や心を覗くことは出来ないが、それでも覚醒階梯は上がってる。
それによる能力向上は、観察眼をも高めてくれる。
おかげで駄目な奴の選別がはかどり、優秀な者が残るようになった。
この場合の優秀とは、能力や技術の高さというわけではない。
日頃から悪さをしないかどうか。
自分を律する事が出来るかどうか。
ひっくるめて誠実さがあるかどうか。
それが選別基準だった。
能力や技術はあまり重視しない。
それが高くても、自分勝手な者は排除される。
どれほど有能であっても、そういった者がいると全体に悪い影響を与える。
その影響は、個人の能力の高さを相殺してなおマイナスを組織全体に与える。
結局、問題を起こすような者は居ない方が全体の能力が上がる。
一人がどれだけ優秀でも意味がない。
こういった者はゴブリンの中ではかなり存在する。
持って生まれた性分なのだから仕方が無い。
それがグゴガ・ルに任せた最も重要な仕事と言ってもよい。
ここで選り分けられて外された者が、早々に最前線に送られる。
犯罪者達と共に。
その方が効率が良いというのもある。
問題を起こす者というのは、集団においては害悪ではある。
なのだが、単独で行動させる分には問題は無い。
周りに悪影響を与えるから集団においておけないだけなのだ。
他に誰もいなければ最高の能力を発揮する。
それでも単独行動には限界があるが、集団で行動させるよりはマシだ。
実際、そうする事で今まででは考えられなかった成果を出す者も出ている。
一人で行動させて本来の能力を出せるようになったのだろう。
それはそれで幸せな結果ではある。
ただ、こうした者はやはり少数で、大半は野垂れ死にしたり、敵に倒されたりしている
。
間引きのついでに敵の足止めが出来ればいいので、それでも問題は無い。
出来るだけ長く現地で足止めに励んでくれればそれで良かった。
問題があるとすれば、最前線にグゴガ・ルがいない事。
おかげで作業の効率が落ちて手間が増えてしまっている。
グゴガ・ルほど出来る人材がいないのだから仕方が無い。
だからといってグゴガ・ルを元の場所に戻すわけにもいかない。
そんな事をすれば、後方における育成が酷い状況になる。
グゴガ・ルがいれば、一定以上の質を確保出来る。
それは今後継続的に適切な戦力を手に入れる事につながる。
そういった人材が揃えば、前線の再構築も滞りなくすすむだろう。
だが、ここで引き抜いたらそうはいかない。
できの悪い、教育の行き届いてないごろつきを受け取る事になる。
そうなってしまったら、今後の管理の手間が増大する。
ゴブリンの統率・管理の為の人間を増やさねばならなくなる。
それは状況を時間と共に悪くしていく。
それを避ける為にも、出来る人間を教育係にすえるのは有効的な手段である。




