246回 帰り道、空を飛びながら考える今後の動き
(こんなもんかな)
会談からの帰り道。
空の上でユキヒコは結果を振り返る。
当面必要なものを手に入れる事は出来た。
なので結果や成果に文句は無い。
対談したヨウセンにも悪い印象は無い。
警戒や打算などはあったが、それは交渉担当者として当然。
決して悪意の人物ではなかった。
(あとはこっちでどうにかしないと)
求めた援助と、それで出来る事。
それらを考えていく。
邪神官とその下の者達にして欲しい事。
やらねばならない事。
それをまとめていく。
どうしても遅れがちになっていた部分も、これで進める事が出来るようになる。
予定を予定通りにこなせるようになる。
(それでも、あと三年か)
陣地を構築して敵に備える。
領地運営の体制を作り上げ、円滑に全てを回せるようにする。
敵地への通路を打開し、敵内部に工作を仕掛けていく。
そういった様々な事が、これから進むようになる。
だが、それをもってしても、どうにもならない問題もある。
ゴブリンの出産と育成だ。
妊娠期間が短く成長が早い。
そんなゴブリンは条件が良ければたやすく繁殖する。
しかし、そうであっても、成人に該当する年齢に達するまで三年。
この時間だけはどうしても短縮出来ない。
比較的簡単に揃える事が出来るゴブリン兵。
それを主力にするつもりでいるのだが。
(やっぱり、この時間だけはどうにもならねえな)
三年。
他の種族に比べればべらぼうに短い期間である。
しかし、それでも三年という時間は長いものだ。
その間、なるべく敵を寄せ付けないようにするのが大変である。
(しょうがないけど)
出来れば全てを前倒しにしたい。
しかし、事はそう簡単にはいかない。
自分をなだめながらため息を吐く。
(あと三年か)
正確に言えば、この期間はもう少し短くなる。
既に計画は動いてるからだ。
ユキヒコが寝返ってからずっとゴブリンの量産は続いている。
最初の拠点制圧、それから村や町への襲撃。
市街の攻略。
その時期から捕らえた女達を聖女にして励ませている。
その頃から既に半年以上は経過している。
新たに誕生したゴブリンは一人や二人ではない。
それらの新生児ゴブリンは、もう訓練に入れるくらいに成長している。
人間でいうならば、六歳か七歳という頃合いだ。
読み書きなどをならいはじめる時期になる。
それらが成人して戦力なるまでにかかる時間は三年を切っている。
敵の矛先をそらし、侵攻を阻止しなければならない時期はそれほど長くは無い。
だが、それでもやはり二年以上の時間は必要だ。
(もう少し敵を攪乱しないと駄目か)
こっちに向かってくる余裕を無くしたい。
向かってきても、その進出をできるだけ押さえ込みたい。
そのためにも、今少し相手に打撃を与えておきたかった。
しかし、そこまでの余裕は無い。
(しばらくはお預けか)
犯罪者と出来の悪いゴブリンを投入し続ける。
敵地にてソウスケに情報を集めてもらう。
必要なら、潜入している特殊部隊に暗躍してもらう。
出来る事はこれくらいだ。
いずれも重要なものだが、いささか決め手に欠ける気もしている。
(ここいらが限界か)
何をするにしても色々足りない。
なので、対外的にはおとなしくしているしかない。
そのことをあらためて再確認する。
(それより、こっちだな)
まっすぐに最前線に戻る事無く、少し寄り道していく。
その立ち寄り先が見えてきたところで、ユキヒコは空からおりていった。
増設された聖女の館のある地域に。
まだ日も高いというのに、そこには大勢のゴブリンが集まっていた。
ゴブリン以外の種族も。




