243回 直接会うのも必要なので魔族の重鎮に会いにいく 6
隠蔽にせよ誇張にせよ、それらは己をよく見せる為に行われる。
そうする事で立場などを保つために。
しかし、送られてきた報告にはそういった事が感じられない。
何せ、社ユキヒコという者の功績しか書かれていないからだ。
執筆した邪神官が功績をほこるなら、わざわざ他人の名前を書く事は無い。
己の成果として記載しただろう。
それが無いだけでも報告書に信憑性が感じられる。
「ただ、ここに書いてある事が嘘では無いにしてもだ。
そうなると気になる事が出てくる」
「なんでしょうか?」
「なぜ君はこの功績を自分のものとして書かなかったのかね?」
疑問の一つはこれだった。
「君らがあげた功績は大きい。
敵の国境線を突破し、更には勇者と聖女と呼ばれる魔女の僕を倒した。
それを正直に彼の功績としたのは?」
「そうした場合の損失が大きいからです」
「というと?」
「まず、それだけの事を為したと偽れば、今後私に同程度の任務が課せられます。
そうなったら大問題です」
邪神官としてはそれは出来ない相談だった。
「残念ですが、私には彼のような力はありません。
同じ事を求められても実現は不可能です」
「まあ、そうだろうな。
書かれてる事が事実なら」
「そんな事を求められるくらいなら、最初から正直に伝えたほうがマシです。
少なくとも私は無茶を求められる事はなくなる」
「賢明な判断だ。
そういった正直さを誰もが持ってればいいんだがな」
なかなかそうでもない現実に、ヨウセンは頭を痛めている。
「だが、それでも報告で嘘をつく事は出来るはずだ。
それに、彼を利用すれば問題はないだろう」
「不可能です」
邪神官の即答。
「そんなこと出来ません。
実行不可能です」
「なぜ?」
「まず、こういった嘘はいずれ露見します。
そして、必ず最悪の結果になります」
嘘やデタラメは決して良い結果をもたらさない。
その場をしのぐ役には立っても、後々のわざわいとなる。
だから邪神官は正直に報告をした。
「何より大きな理由は、この男に嘘が通じないからです」
ユキヒコをさしてそう言う。
「この男は心を読みます。
そんな男に嘘は吐けません」
「どういう事だ?」
「言葉通りです。
この男は心を読みます。
考えてる事が読まれます。
嘘を吐いても意味がありません」
「……報告書にはあったが、それは本当なのか」
「はい」
頷く邪神官。
「だからこの男の前では正直になるしかありません。
敵に回したら恐ろしい事になります」
ヨウセンはそこでため息を吐いた。
邪神官に嘘を吐いてる様子は無い。
正真正銘その通りなのだろう。
それに、嘘を吐いてるならそれはすぐに分かる。
この部屋には嘘を露見させる魔術器具が設置されている。
言葉に偽りがあれば簡単に見分ける事が出来る。
それが反応してないのだから、言ってる通りという事になる。




