240回 直接会うのも必要なので魔族の重鎮に会いにいく 3
明けて翌日。
快適に起きる事が出来たユキヒコは、着替えて朝食を済ましていく。
あとは会談になるのだが、ここで一旦待ち時間が発生する。
会談は昼過ぎからになる予定で、それまで時間を待たねばならない。
それならばと町へと繰り出す事にする。
そう遠くまで出歩けないが、他にやる事もない。
異種族連合である魔族の町を眺め見たかった。
直に触れてみたかった。
戦場の兵士達以外がどんな生活をしてるのか。
そこに興味があった。
案内をつけてもらい、町の中に。
大勢の人が行き交う中に踏み込んでいく。
荷物を積み込んだ荷車が行き交っている。
何をしてるのかは分からないが、様々な人があちこちから出てきて通りを歩いて行く。
伝票や台帳を手にした商人らしき者が、倉庫の前に立つ者と話し合ってる。
補修なのか新造なのか、建設工事をしている労働者がいる。
町の中に通された井戸の周りに、母親とそれに連れられてきたと思われる子供の姿がある。 そこにあったのは、思ったよりも普通な。
いや、思った通りでもあった日常が展開されていた。
(変わらないもんだな。
当たり前だけど)
町を見たユキヒコの感想である。
そこにいる種族こそ違うが、見聞きした風景はイエル側と同じようなものだった。
魔族と呼ばれているが、その言葉の持つおぞましさやおどろおどろした部分は無い。
食べて、働いて、寝て。
そういった当たり前の生き方に違いは無い。
(種族が違うだけなんだな、本当に)
当たり前の事実を再確認していく。
そこにあるのは当たり前の光景だった。
人が人として生きていく為に必要になるものに大きな違いは無い。
それが人間族以外の種族であってもだ。
エルフ、ドワーフ、小人。
イビルエルフ、ゴブリン、獣人、鬼人。
所属する陣営は違うが、どちらも食べて、寝て、働くのは同じだ。
ならば、日頃の生活風景が同じものになるのも当然である。
そこはユキヒコの予想した通りであった。
異種族ならではの風習の違いはあるだろうが、大筋に違いは無い。
魔族というから何か違いがあるのかとは思ったが。
そういった事は無かった。
少なくとも、目に見える部分では。
ある意味、予想が外れたとはいえる。
違いはさほど無かったのだから。
そして、思った通りでもある。
こちら側に来て実際に触れた魔族側の種族。
それらの態度や行動は、イエル側と大きな違いはなかった。
種族による違い、種族ごとの文化。
これらは確かに違った。
だが、生活そのものに大きな変化はなかった。
それを考えれば、魔族側の日常というのもある程度予想は出来ていた。
(ここにはここの生活があるんだな)
当たり前の事、当然の事。
それを確かめていく。
女神…………いや、魔女イエルが定めた呼び方によるものではなく。
己の目によって。
それらを少しでも感じ取ってから城へと戻っていく。
丁度良く対面の時間になる頃合いである。




