239回 直接会うのも必要なので魔族の重鎮に会いにいく 2
「こうなってたんだ」
馬車に乗り込み、ユキヒコは初めて魔族/異種族連合の世界を見る事になる。
前線付近はさすがに殺伐としたものだった。
ようやく整備された輸送用の道路。
それに沿うように並ぶ野営用のテントの群れ。
行き交う兵士と軍属達。
戦争をしてるという雰囲気が立ち上っている。
そこを通過し、馬車を乗り換えて更に進む。
そうすると、今度は少しばかり文明的な姿が見えてくる。
広がる田畑や牧場。
農民のものであろう集落。
そして町。
馬車を替えながら進む先にあったのは、イエル側と変わらない人里の姿だった。
家の建築様式などは確かに違う。
そこを行き交う種族もイエル側とは違う。
エルフにドワーフ、小人といったイエル側の種族の姿はなく。
イビルエルフに獣人、鬼人。
そういった者達が代わりにそこにいる。
あと、ゴブリン。
それに続いて人間の姿が目立つ。
人数ではさすがにゴブリンには負けるようだが、こちら側でも人間族が数多いようだった。
そういった者達の住まう村や町を通り過ぎ。
ユキヒコは最寄りで最も大きいと言われる都市に到着する。
こちら側の県都にあたるだろうか。
なるほど、確かに規模は市街などをはるかに超える。
巨大な外壁と、天守閣を備えた城。
それは紛れもなく中心地と言うべき風格を備えた巨大都市だった。
「ようやく着いた……」
馬車に長く座っていたせいで妙な疲れを感じる。
何時間も揺られていたのだから仕方ないだろう。
「これなら、飛んでる方が楽だ」
念動力によって空を飛ぶ事が出来るユキヒコならではの台詞である。
実際、移動速度もその方が速い。
それでも馬車に乗ってきたのは、行く先が分からなかったから。
同行者に邪神官がいるからである。
それが無ければわざわざ馬車に乗る必要は無い。
「ご苦労だったな」
そのあたりを知る邪神官はねぎらいの言葉をかける。
「だが、今日はとにかく休んでくれ。
会談は明日だからな」
「そうさせてもらうよ」
疲れていたユキヒコは、邪神官の言葉に素直に従う事にした。
ありがたい事に、宿泊先は結構立派なところだった。
最高級の旅館や迎賓用の客室というわけではなかったが。
それでも一定以上の地位や階級の者に用意されるという宿泊施設であるという。
少なくともユキヒコの知る一般人向けや兵隊用の宿泊施設よりは格が上だ。
部屋は小さいが一人用だし、ベッドも作りが良い。
掃除もされてるようで清潔感がある。
少なくとも埃がたまってるという事は無い。
少年の頃までは村の、それから義勇兵になってからは野宿やテント、兵隊用宿舎での雑魚寝。
そんなものくらいしか知らなかったユキヒコにとっては豪勢に分類される部屋だった。
これを超えるのは、制圧した県都にあった貴族や聖職者、その他の有力者の寝室くらいである。
(それなりに歓迎されてるって事なんだろうな)
それなりの部屋をあてがわれるという事は、それなりの扱いをするという意思表示だろう。
実際に何を考えてるのかは分からないが。
しかし害意があるとは思えない。
そう思わせる策かもしれないけども。
(疑ったらきりがないけど……)
その可能性も考えてはいた。
一応協力関係にはあるが、ユキヒコは明確な味方というわけではない。
魔族/異種族連合からしたら、不安や疑念もあるだろう。
一緒に行動してる邪神官やイビルエルフ、グゴガ・ルなどのゴブリン達の信は得てるにしても。
それ以外の者達からすれば、敵を裏切ってきた者である。
かなりの功績をたてはしたが、それでも胡散臭いと思っていてもおかしくはない。
(優秀な諜報員は、味方すら裏切って敵の信を得るっていうからな)
漏れ聞く話や、貴族らの頭の中を覗いた時にそういう話も見聞きした。
信じるという事はそれだけ難しい。
何らかの対応や対策がとられていてもおかしくはない。
(まあ、何かあればそん時はどうにかすりゃいいだけだけど)
最悪、この都市にいる全てが敵になっても勝てる。
それだけの力は持っている。
(そうなってほしくないけど)
ユキヒコとしては、可能な限り友好的な協調関係を築き上げたかった。
だが、相手が警戒して敵視してくるならどうにもならない。
最悪、洗脳するしかない。
(それは避けたいけど)
出来ればそんな事をせずにいたかった。
とはいえ、警戒を怠るわけにはいかない。
この周囲の状態を確かめる為に超感覚の能力を使っていく。
透視や遠視、人の心を読むといったこの能力は、周囲にいる存在や状態を把握するのにうってつけだ。
それを駆使して周辺の様子をうかがう。
(特に警戒や監視はないか)
盗聴や監視の為の魔術は施されてるが、それは妥当な対応だろう。
それくらいの用心、情報収集の気概がなければ防諜などは出来ない。
自分の行動の全てが見張られてるのは嬉しいものではないが。
(しょうがないか、これくらいは)
自分への害意が感じられないだけでよしとする。
(でも、まあ……)
自分の所に不用意におかしな輩が近づかないように細工はしていく。
自分の周囲に精神的な作用を及ぼす気を張り巡らせていく。
効果範囲に入った者は、ユキヒコへの害意を失う。
どんな命令を受けていてもだ。
それが魔術によるものであっても効力を失う。
それを長時間にわたって継続するようにしておく。
ついでに警報のように不審者の接近を伝えるような気も設置する。
それらを用意してからユキヒコは、ベッドに入って目を閉じた。
すぐに眠れるわけではないが、体を休めるために。
いくら気力を用いて耐性をあげていたとはいえ、長時間の馬車は結構こたえていた。
(あの乗り心地はどうにかならないかな)
帰りも同じように馬車に乗ると思うと憂鬱だった。
メッセージにての感想ありがとう
もらえるとやっぱり嬉しい
また、誤字脱字報告も
おかげで助かってる
救いが無いのは作中の登場人物たちだけである
そんな話を書いてる俺は、相当な駄目人間
なお、「かんそうらん」が「簡素ウラン」と変換されるのは何故だろう?
不思議でしょうがない




