234回 果たすべき務めの放棄は許されない
民衆とは面倒なものだ。
普段は力なく、何があっても耐え忍ぶ。
どんな理不尽な扱いを受けてもだ。
しかし、それが一旦堰を切れば、圧倒的な力で支配者を壊滅させる。
暴動、反乱、革命。
規模も呼び方も様々だが、そういう事態になったら収集がつかない。
最終的に鎮圧は出来ても、くすぶる不満が残る。
そして、様々な生産活動が停滞していく。
単純に作業効率が落ちて収穫が減る。
当然ながら税収も減る。
様々な布令が思った通りに伝わらなくなる。
表だっては従っていても、その実あらゆる事に背き始める。
それらが積もり積もって、国力という総合的な力を大きく落とす事になる。
それを避けるためにも、統治者・支配者としてやるべき責務を果たさねばならない。
敵からの保護はその一つである。
それを放棄したら、民衆は決して統治者・支配者を信頼しなくなる。
何せ命がかかってるのだ。
自分の命を踏みにじられてまで従う者はいない。
むしろ、自分らを捨てた連中に憎悪を向ける。
そういう事態を逃げ出した連中は起こした。
国として決して放置するわけにはいかない。
たとえ相手が有力者の傘下にいようともだ。
これを放置したら国がたちいかなくなるのに、有力者も何もあったものではない。
その有力者というのも、国があって始めて成り立つものなのだ。
国が崩壊してしまったら、その地位も崩壊する。
このため、前線縮小・後退において愚行を犯した者達は、軒並み処分されていく事になる。
有力者も自分の派閥にそういった事をしでかした者がいれば、ためらう事無く追求してくる捜査・治安関係者に突き出した。
自分の害が及ぶのを避ける為だ。
もっとも、それで罪を免れるという事は無かったが。
今回、国王自身が徹底的な処罰を言い渡した。
国の根幹に関わる事になりかねないので、国王とてかばいきれない。
ここで厳しい態度を示さないと民衆に示しがつかないのだ。
これを機会に目障りな有力者、派閥の領袖を潰すという意図もある。
だが、それ以上に国の存続を優先した為だ。
民衆への慈愛だけではない。
それもあるにはある。
顔も見たことも無い、地位も最低あたりの民衆ではある。
だからといってそれらを蔑ろにするつもりも国王にはなかった。
だが、それ以上に恐れたのは民衆が不信や不満を持つことで国が傾く事だった。
国王の地位というのは、とどのつまり民衆がいるかどうかで成り立つ。
どれほどの権力を持とうとも、民がいなければ国王などただの人である。
そんな人が頂点に立っていられるのは、国民がいるからだ。
国民がいて国が成り立ち、その頂点に立っている。
国民こそが国王の基盤であり土台である。
それを蔑ろにされたら、国の崩壊、ひいては国王という地位や立場の消滅につながる。
己の地位を保つためにも、王は民衆を守らねばならない。
それが妥協や打算の産物であったとしてもだ。
動機や理由はこの際何でもいい。
ただ、結果として民衆を守り保たねばならない。
それが国王にとって最大の利益になる。
その利益を損なわれたのだ。
下手すれば国が崩壊する発端になる。
国王として放置するわけにはいかなかった。




