229回 片付いた者とやり残しがある者 2
「あと、力の方はどうだ?」
「ああ、色々と分かるようになった」
今度は更に別の事を尋ねる。
ソウスケが目覚めた能力の事だ。
元女房の霊魂を吸収した際に目覚めた。
それはユキヒコも確認している。
今、ソウスケには『覚醒階梯2』がある。
「おかげで色々と助かってる。
この力を使うと、頭の回転が良くなったりするからな」
おかげで今後の商売の展望などが色々浮かんでくる。
それに、手にした情報の処理にも役立つ。
他にも肉体能力なども強化できるのがありがたい。
「ユキヒコがやり方を教えてくれたおかげでもあるな」
「少しでも助けになってるようで良かったよ」
「ああ。
だんだんなじんでくる。
そのうち、もう一段階上がるといいんだけど」
「そうなってくれると、俺も助かる」
使える人間が増えるのはありがたい。
それが仲間なのだからなおさら。
ユキヒコとしても惜しまず教える甲斐があるというもの。
「ただ、こっちにいると女を作る機会もなくてな」
「子供は当分先か」
「そうなっちまうよ。
こればかりは残念だ」
そう言って笑う。
そこに屈託は無い。
「少しは欲望も戻ってきたのかな」
「だろうな。
あいつがいた時はそればかり気になってたけど。
処分して吹っ切れたよ」
それなりに前向きに生きていけるようになったらしい。
「もっと早く頭を切り替えておけば良かったって、今なら思う」
「そうなって良かったよ。
あんたが少しでも幸せになれたんなら」
「なってるよ、おかげで」
「それなら良いんだけど」
ソウスケの幸せそうな、少なくとも何も引きずってない顔を見て安心する。
元女房であったシグレの事はもう過去の事になってるようだ。
思い出す事はあっても、それが尾を引くことは無い。
立ち直るというとおかしいかもしれない。
しかし、ソウスケは着実に前を見れるようになっていた。
(それに引き換え……)
自分は?
そう考える。
翻って自分はどうなのだろうと我に返る。
そうすると、やはり暗澹たる気分になる。
まだユキヒコはかつての事を引きずっている。
聖女になったユカの事を思い出し、胸がふたがれる。
その都度頭が真っ黒になる。
激しく表に出る事は無いが、怒りや憤りで何も考えられなくなる。
あの日、勇者と聖女の泊まるテントの中の事を思い出す。
交わる勇者と聖女達、その中にいる幼なじみ。
いまだそれはユキヒコの傷だった。




