225回 おそるべき魔族の動き、その実態 2
犯罪者にしろゴブリンにしろ、基本的には頭が悪い。
視野の狭さや考えの浅さがまずある。
また、刹那的にその場その場での事しか考えない。
この先どうなるかという事を想像すらしない。
それが故に思慮深さと無縁な行動をとる。
そうでなければ、犯罪という危険を伴う行為に走るわけがない。
ゴブリンももう少し上手く立ち回るだろう。
特にその他の連中と合流するという事を拒絶する事が多い。
縄張り意識というか、お山の大将的な考えがあるからだ。
どんな小さくても一つの集団の上に立ってる者は、その立場を守りたくなる。
そのため、誰かの風下につく事をよしとしない。
手下も手下で、自分の所属してる集団が一番であり、他の集団を認めようとしない。
ある種の傲慢さによるものと言えた。
そこにこだわってる場合では無い、という事まで頭が回らない。
そういった頭の悪さ、そういうしかない考えや行動をしていた。
だが、痛い目にあえば少しは学習する。
今のままでは駄目だと思い始める。
特に仲間を殺されて命からがら逃げ出した者達は。
ただでさえ少ない人数だったのだ。
それが更に減ってしまったら、もう生きていく事も困難になる。
やむなく他の集団に参加することになる。
たとえ、それで一番の下っ端になったとしても。
使いっ走りとしてこき使われるとしても。
一人二人でいるよりは、生き残る可能性が高くなるからだ。
そうして合流をしていった集団は、他をまとめ始める。
人数において少しでも有利であれば、同じような境遇の他の連中を従えはじめる。
むろん、平穏になされる事はまれだ。
だいたいにおいて、相手を叩きのめして言うことを聞かせる。
お山の大将であるから仕方が無い。
殴りあいで従わせるしか言うことを聞かせる方法は無い。
それでも合流して大所帯になった所は、村や町を襲っていく。
そして物と家と奴隷にした元住人を従えていく。
追い出された彼らは、こうしてねぐらを確保していく。
これがイエル側に送り込まれた犯罪者とできの悪いゴブリンの行動である。
その行動を表すなら次の一言しかあるまい。
『いきあたりばったり』
考えがあるわけではない。
目先の事だけ考えて動いてるだけである。
そこに戦略や策謀策略なんてものはない。
たまたまそうなったというだけだ。
統率もとれてない。
そもそも基本的な訓練すら受けてない。
そんな連中である。
イエル側への邪魔は出来ても、軍勢を撃破する事は出来ない。
刻一刻と防衛陣地が完成し、その結果自分たちが追い込まれていく事も分かってない。
とりあえずぶんどることが出来た成果を喜ぶだけだ。
それが尽きるまではそれで満足する。
それ以外に何かをしてるわけではない。
ただ、邪魔になってるという点だけは上手くやっている。
結果としてそうなっただけだが、これはユキヒコの望み通りになっていた。
時間稼ぎという意味ではかなり上手くいっている。
おかげで敵を国境地帯から遠ざける事が出来た。
陣地構築で時間と人も物資もそちらに注ぎこんでいる。
それが完成したら面倒な事になるが、それまでにはまだ何ヶ月もかかるだろう。
完璧を求めるなら一年二年という歳月がかかる。
その間、魔族側に侵攻してくる事は無いはず。
ならばそれで十分だった。
そうはいっても、問題が全くないわけではない。
防衛用の陣地が完成したら、内部との連絡が取りづらくなる。
そうなると、敵地に入り込んでるソウスケ達が孤立する。
もともと潜入工作のための者達だから、敵地の中にいるのは当然ではある。
しかし、連絡が途絶するのだけは避けたかった。




