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22回 思い出────努力が次の段階への道を示し、着実に先へと進んでいく

「お前のような奴は初めてだ」

 何度も講習に顔を出すユキヒコに、馴染みとなった教官はそう言った。

「たいていの奴は、自分の給料を上げる事しか考えないからな」

 それを賞賛として素直に受け取ったユキヒコは、黙々と課程をこなしていった。



 世知辛い、あるいはせせせせこましい話になるが。

 この講習、無料というわけではない。

 わずかばかりだが金を取る。

 微々たる給料をしかもらってない義勇兵にとっては、この出費は痛手だ。

 そんな事に使うくらいなら、博打か遊びに使うというのが普通だった。



 そんな者達と違い、ユキヒコはただひたすら講習を受け続けた。

 金が手元にあり、日程が合うならば何でも参加した。

 戦闘に役立つものを中心にではあるが、それ以外のものにも顔を出していった。

 武術に始まり、野外生活の方法、追跡や備考、潜伏の手段。

 手旗やのろし、笛を使った通信・信号。

 全部をおぼえきる事は不可能ではあったが、何でもやった。

 使えそうなもの、気になったもの。

 とにかく何でもだ。



 そうしていく事で、上級課程への参加資格も手にいれた。

 これは、課程を修了する事で進める次の段階である。

 より専門的な事を教わる事が出来る。

 身につけるのは困難になるが、会得するれば活躍の機会も増える。

 もちろん待遇も更に良くなる。



 そうした課程を修了するのは難しい。

 合格できずに何回も挑む者もいる。

 ユキヒコも一回で終わらず、二回三回と挑んだ事もあった。

 それでも評価は上がっていく。

 何度も挑むやる気というのが。

 出来る出来ないというのは確かに大きいが、それはさして重用では無い。

 だいたい、上級課程に出てこれるだけでも大したものなのだ。

 そこまで来れる人間ならば、目も声もかけられる。



「どうだ、俺達と一緒にやらないか?」

 先輩の義勇兵に声をかけられたのは、そんな頃だった。

 彼らは義勇兵としてはそれなりの活動をしていた。

 そんな彼らの耳に、訓練所の教官などが伝えたという。

 熱心に訓練に参加してる者がいると。

 それを聞いて先輩義勇兵達はやってきた。

「やる気のある奴は歓迎だ」

 そういって参加の意思を尋ねていく。

 ユキヒコは迷わず誘いにのった。

 義勇兵になって一年が経過しようとしていた。



 そこからは先輩義勇兵達と共に行動し、様々な作戦に参加した。

 とはいっても、さほど大きなものではない。

 比較的安全な地域の巡回や警戒。

 魔族の目撃情報がある地域の調査。

 こういった偵察や監視が主なものだった。

 そう大きな功績をたてる事は出来ない。



 それでも、やるにはそれなりの知識や技術を持ってる者が必要だった。

 一度出撃すると、一週間ほどは外を回る事になる。

 その為、野外での活動能力がないとどうにもならない。

 出来ればそういった経験を。

 それが無くても、最低限の訓練をこなしているのが望ましい。



 幸い、ユキヒコはそういう講習や訓練を受けていた。

 戦闘技術も含め、様々な講習に出ていた。

 おさらいの為に二回三回と同じ講習を受ける事もあった。

 それらが生きた。



 先輩義勇兵達もそこを求めていた。

 戦闘能力があるならそれに越した事は無い。

 だが、まずは戦闘が発生しそうな地域まで出向かねばならない。

 そこまで行ける、そして帰ってこれる力が欲しかった。

 ユキヒコはそういったものを身につけていた。

 だからこそ、その能力を買った。



 何より、欲しかったのは荷物持ちである。

 食料を始めとした活動用具を持ち運ぶ人足。

 それを彼等は求めていた。

 戦闘技術もあれば良いが、そんな事は彼ら自身がどうにかする。

 それよりも、とにかく頭数を求めていた。



 そういった理由をユキヒコはすぐに理解した。

 何せ、最初に任務で多くの荷物を分担させられたのだから。

(ああ、なるほど)

と思ったのも当然である。

 だが、入って一年の新人などそんなものだろうとも思った。

 いきなり重要な仕事を割り振られるわけもない。

 それでも腐る事無くユキヒコは先輩のあとをついていった。

 これも歴とした作戦行動なのだから。



 支給された中古品の武器や防具を身につける。

 そうしながら先輩の後ろについていく。

 初めて出る危険地帯には緊張をさせられた。

 そうそう敵が出る地域でないとは分かっていたが。

 それでも、敵との遭遇の可能性はある。

 どうしても気が抜けなかった。



 ただ、先輩達の従事していた任務はそれほど緊迫したものではない。

 目的は、敵がいないかどうかを確かめる。

 その為の巡回や哨戒が主なものだった。

 そこで敵を発見したなら、その目撃情報を持ち帰る。

 可能であるならば敵を撃破する。

 そんな任務だった。



 通信技術の発達してない世界である。

 声を遠くに送ったり、遠くを見る魔術などは一応ある。

 だが、誰もが使える遠距離通信手段はない。

 そんな世界なので、目撃情報がしっかり伝わらない事などざらにある。

 情報を手に入れる手段は、基本的に一つ。

 目撃者が生きて帰還して報告すること。



 こういった事情があるために、偵察の重要性は高い。

 もし情報が遅れれば最悪の事態になりかねない。

 だからこそ、確実に帰還出来る者が必要だった。

 そういった任務をになってるのが先輩義勇兵達だった。

 彼らはこの優先順位をしっかりわきまえていた。



 無駄な戦闘はしない。

 無理な戦闘はしない。

 何かを見つけたら確実に生きて帰る。

 それも出来るだけ速やかに。

 その事を彼らは守っていた。

 なので、戦果という意味ではさほど大きな功績はない。

 だが、もたらす情報というもので功績をたてていた。



 ユキヒコにもそれらがだんだんと分かってきた。

 何度か作戦をこなし、そういった部分が見えてくる。

 痕跡を見つけ、時に追跡し、時に尾行して。

 姿を隠して様子を見て。

 そうして得た情報を持ち帰る事で任務を達成していった。

 功績と共に任務達成の報奨金を得るようになった。



 通常の給料に加えて、これでかなりの余裕が出来た。

 ユキヒコは更に訓練や研修を受けていく。

 出撃の邪魔にならないよう気をつけたが、支障が無ければ可能な限りの訓練に参加した。

 一緒に行動するようになってあらためてわかったが、学ぶべき事はまだまだ多い。



 ここで気を読む能力が生きてくる。

 ユキヒコが持って生まれたこの能力は、敵の発見などの大きな助けになった。

 発見できる範囲は限られてるが、事前に敵を見つける事は多い。

 また、戦闘においても有効だとこの時期に分かった。

 相手の動きが掴めるのだ。

 隙を見つける事もたやすい。

 その為、戦闘でユキヒコは次々に敵を倒していった。



 一年も経つ頃には、それなりの戦力になっていった。

 この頃になると戦闘に必要な技術にも磨きをかけていた。

 義勇兵に教えられる簡単な戦闘法だけではない。

 瞬時に戦闘に入れるように抜刀術を。

 抜いた刀剣を扱えるように剣術を。

 手近にあるものを武器に出来るように棒術を。

 同じ理由で遠距離攻撃が出来るように礫(投石)や投石器術を。

 更に遠距離攻撃手段として弓術を。

 全てに熟達する事は出来なかったが、やり方だけは一応おぼえていった。



 戦闘だけではない。

 野外活動において必要な能力や技術も磨きをかけた。

 どうしても外で活動する事が多くなるので、これらも必須だった。

 監視や罠をはる手段も含めて、出来るかぎりおぼえていった。



 そんな事をしてる間に更に一年が経過した。

 この頃になると、ユキヒコが他の義勇兵をまかされる事も増えてきた。

 いつまでも先輩達と一緒に行動出来るわけではなかった。

 上層部からすれば、優秀な人間には独立して新たに部隊を率いてもらいたいのだろう。

 それもあって、統率の仕方、指揮の取り方、戦術知識などもおぼえていく。

 活動開始三年目にして、小さい班や組を率いるようになった。



 同時に、この頃からユキヒコが担う任務が変わってきた。

 偵察や監視といった活動は今まで通りである。

 そこに新たな作業が加わってきた。

 発見した敵の殲滅や、敵拠点への強襲などである。

 可能ならば殲滅し、敵の行動を阻止する。

 危険を伴う戦闘任務が少しずつ増えていった。



 更にこれと平行して、新人を鍛える事も増えていった。

 持って生まれた才能があっても、それを活かすための知識や技術がなければどうしようもない。

 必要になる知識や技術を身につけさせなければ、戦力とはならない。

 それらを教える役目をおおせつかる事が多くなった。

 面倒だとは思ったが、これも仕事と思ってこなしていく。

 育てて成長した者が部下になり、共に作戦に臨む事もあるかもしれないと思って。



 活動四年目になる頃には、ユキヒコは前線では少しは知られる存在になっていた。

 少数で敵地に潜入し、多大な損害を与える者として。

 ちょっとした英雄のような扱いだった。

 そんな名声を得ながらも、ユキヒコ自身は今までと変わらず任務をこなしていった。



(上手くいってるのかな)

 どれだけ功績をあげても、ユキヒコの心は心配と不安が渦巻いていた。

 確かにそれなりの功績をあげている。

 義勇兵としては異例な程の成果だろう。

 正規軍からも作戦参加を求められる事も増えてきた。

 だが、それはあくまで下っ端の一兵士としての評価だ。



 求めてるのはそれ以上の功績だった。

 せめて聖女に手が届くくらいの。

 そんな手段があるのかどうかは分からない。

 そもそも聖女に手が届くのかも不明だ。

 しかし、他に手段が思いつかないのだから、これをやるしかない。

(ユカ…………)

 四年が経過してもなお、ユキヒコはユカを追っていた。



 こんな事をしてても問題が解決するとは思えなかった。

 そもそもとして、勇者から聖女を取り戻す事など考えられない。

 それくらい確固たる関係を求められるのが勇者と聖女だ。

 多少の緩和はあっても、聖女を勇者から切り離す事は出来ない。



 やるとしても、それは勇者との繋がりを前提としたもの。

 聖女が勇者と共にいる事を許容した上での話になる。

 聖女と勇者が一緒に暮らす事をもとに、聖女の接触が認められるという程度だ。

 極論すれば、聖女が生んだ勇者の子供を育てる事を求められる。

 聖女が勇者との関係しか認められない以上、これを認めない限り聖女との接点は許されない。



 もちろんユキヒコが求めてるのはそんな事ではない。

 勇者からユカを切り離す。

 それが望みだ。

 現状の社会では、女神イエルへの崇拝の中では不可能だろう。

 だが、それでもユキヒコはユカを取り戻す事を考えていた。



 そんな時である。

 勇者への支援作戦に参加させられる事になったのは。

 義勇兵になって5年の年月が経過しようとしていた頃だった。

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