217回 敵は対応する、たとえ残酷非道な手段であっても 3
「無理をするしかないな」
ヒサカゲはため息を吐きながら決断する。
「強制的に人を集めてやるしかない。
強硬手段を使ってもかまわん。
どんな事をしてでも防衛線を構築するんだ」
犠牲が出てもかまわない、とはさすがに思ってはいない。
だが、犠牲を出してでもやらねばならないとは思っている。
でなければ、もっと大きな、出さなくてよい犠牲を出す事になる。
「必要なものを考えろ。
どんなものを作るか、どこから作るか、どのくらい時間がかかるか。
どれだけの人間が必要なのか」
重臣達は『分かりました』と頷く。
彼らもこれがやむなき非常手段とこころえている。
そのためにヒサカゲの胸中を察していった。
「それで」
おそるおそるといった態で重臣の一人が尋ねる。
「具体的にいかがいたしましょう。
人手を集めるにしても、どこからどのように引き抜くのか……」
それが問題である。
強引に引っ張ってくるにせよ、その対象をどこにするのか。
それを選ばなければ、地域経済に大きな影響を出してしまう。
この場合の経済とは、単に金の流れだけを指すわけではない。
物品の生産量、流通、それらによって成り立つ人々の生活。
社会そのものの存亡を指す。
経済…………金の流れとは、そういったものが成り立った上で発生する。
いわば、人々の営みの結果でしかない。
金の流れだけを操作しても、人の生活、社会の営みが変わるわけではない。
しかし、人々の生活が損壊すれば、確実に経済は破綻する。
経済(金の流れ)とは、人々の生活、生命の従属物でしかない。
その根本である人々の生活。
それを損なわない為にはどこから人を引き抜くのか。
それを考えねばならない。
下手に生産に関わるところから引き抜けば、確実に社会が機能不全をおこす。
どうしてもこの部分は慎重にならざるえなかった。
「知れたこと」
ヒサカゲは即座に答えた。
「前線になってる地域だ」
重臣達はその声に、なるほどと頷いた。




