212回 内部に入り込む、その足がかりを作っていく
情報収集という点ではソウスケの活動も重要なものになる。
外から観察するだけでは分からない内情。
それを探るには人の中に入っていかねばならない。
言葉を交わし、少しでも実情に近いところを知る必要がある。
それは現状ではソウスケにしか出来ない事だった。
行商人として潜入するソウスケは、その任務を可能な限り遂行しようとしていた。
とりあえずは行った先々の町や村の物資の状況。
高くても売れるなら物資が足りてない。
まだ値段が抑え気味ならば、まだ余裕がある。
また、人の顔色などを見てどの程度気力や体力が残ってるのかも探る。
疲弊してる者は、どうしたって外見にそれがあらわれる。
商売をする際に行う世間話からも色々うかがえる。
言葉の端々に内部事情があらわれるからだ。
最近の人の出入りがどれくらい増減してるのか。
物資の行き来はどうなってるのか。
領主などから布令が出てるかどうか。
そんな事が状況を判断する材料になる。
行商人だった頃も、そんな所から物資の多寡、ひいては商品の需要をはかっていたものだ。
今はその対象範囲がもう少しひろがっている。
敵軍の動きに領主らの動向。
それらも可能な限り調べあげていく。
何なら、領主の所に直接声をかけ商売を持ちかけながら。
物資不足のところなら、ソウスケの話に飛びついてくる。
そういったところならば、ソウスケの扮する零細行商人でも食い込む余地があった。
「────てなところだと思う」
郊外に出て偵察隊と合流し、情報を渡していく。
ソウスケが聞き出した事、聞き出した事から推測した事。
それらをまとめて渡す。
書面になった情報を受け取った偵察隊は、礼を言って退散していく。
手にした情報をユキヒコ達に伝える為に。
その後ろ姿を見送る事もなく馬車に乗り込んだソウスケは、次の目的地へと向かっていく。
巡らねばならない所は多い。
立ち止まってる暇はなかった。




