211回 発生する事件への対応と苦慮 3
イエル側の者達が悩んでる間にも、魔族は続々と押し寄せる。
前線、あるいは国境。
その付近にある町や村が次々に襲われていく。
今まで国境から離れていたせいで、守りも薄い地域だ。
襲われたらひとたまりもない。
それでも一回二回は防ぐことは出来る。
しかし、五回十回と襲われたらさすがに消耗する。
断続的に、それもいつ来るか分からない敵。
そんなものに備えねばならないのは、それだけで気持ちに負担がかかる。
いつやってくるか分からないから、警戒を怠れない。
警戒の為に人をさけば、普段の仕事がおろそかになる。
なのだが警備を放棄するわけにもいかない。
来るのは確実なのだから。
備えておかなければ、いざという時に酷いことになる。
そのため、不断の緊張をしいられる。
住民達はたまったものではなかった。
更に追い打ちをかけるのは、彼らにも伝わる敵の非道さだ。
それは占領された地域から流れてきた者達の姿が物語っている。
教会で、あるいは行商人から。
立ち寄った統治者や軍の伝令が漏らした話から。
移動する義勇兵がもたらした情報から。
様々な経路を通って伝わる逃亡者達の姿。
目と耳、そして手足を片方ずつ潰され、まともな生活がおくれなくなった者達。
また、若い女は根こそぎ連れていかれたとも。
それらがどうなったのかは、誰もがたやすく予想が出来た。
魔族に制圧されるというのはそういう事だと誰もが心に刻みこむ。
だからこそ、最前線が近くまで迫った地域の者は、身を守るために無理を重ねる。
それが余計な消耗を促し、体力と注意力を低下させる。
日常の作業にも支障を出し始め、地域全体の業績を落としていく。
自覚のないままに住民達はむしばまれていく。
そんな地域に魔族は、偵察隊を出していく。
犯罪者やできの悪いゴブリンとは別に。
人間族やイビルエルフ、獣人に鬼人らで構成された、いわば精鋭である。
それらを敵地に潜入させ、様子を探らせていく。
何よりも地形の把握、地図の作成が求められる。
今後攻め込む際に必要になるからだ。




