210回 発生する事件への対応と苦慮 2
しかし、対処が難しいというのも確かな要因だ。
今回起こってる出来事は、(女神/魔女イエル側から見れば)戦線の崩壊によって引き起こされている。
そこから敵が浸透し、国内の問題にまで発展している。
それをどうにかするには、前線の再構築が必要だ。
なのだが、兵力が足りない。
敵が突破した地域にいた兵力は崩壊している。
それを補おうにも、国内の兵力を用いるのも難しい。
そもそもとして、戦力の大半は前線に送り込んでいる。
余剰兵力や予備兵力がそもそも少ない。
これも長年続く戦争の影響である。
予備選力を確保していくだけの余裕が無くなっている。
そんなところで、一部とはいえ前線の崩壊である。
対応しようにもどうにもならない状況だった。
やってやれない事は無い。
どうしても対処が必要なら、方法はある。
しかし、その方法を用いるにも大きな問題があった。
なぜならば、前線の縮小を余儀なくされるからだ。
兵力が足りないのは、現在の防衛戦・前線を維持する為だ。
その前線を縮小出来れば、兵力は抽出出来る。
しかしそうなると、当然ながら敵の侵攻・進出をそれだけ許す事になる。
国境沿いの町や村、果ては都市の放棄すらも必要になる。
仮にそれが出来たとしてもだ。
そうなった場合の防備の再構築も必要だ。
縮小・後退して新たに設置する防衛戦には敵を防ぐ為の備えが必要になる。
それを構築するには時間が必要だ。
金も資材も必要になる。
人員も。
それらを捻出するのも難しい。
それでも、これらをどうにか解決するとしてもだ。
戦線の縮小に伴う撤退。
この難しさもある。
何せ、敵が目の前にいるのだ。
背後を襲われたらかなわない。
攻め込むのも難しいが、撤退・後退するのはそれとは違った難しさがある。
それを実施するとなると、それなりの作戦が必要になる。
こんなわけで、戦力の抽出・それに伴う戦線の縮小も困難だった。
前に進むにも後ろに下がるにも多大な労力が必要になる。
やるにしてもすぐに実行出来るわけではない。
まして実行すれば大きな犠牲が伴うのだ。
なのだが、やらねば戦線の崩壊したところから敵が浸透し続ける。
放置すれば確実に国内にまで食い込んでくるだろう。
それは戦線の縮小・後退以上の損失になりかねない。
時間が経てば経つほど、それは大きくなっていく。
イエル側の陣営は否応なしに決断を迫られる。
何を選んでも損失が避けられない選択を。
それでも、より大きな出血を避けるために最悪の選択をしていかねばならない。
そして、そこに該当する地域の貴族らの思惑も絡んでくる。
その上司にあたる貴族も当然動く。
誰だって自分の領地や領土を失いたくはない。
そのため、戦線の後退はやむをえないとしても、自分の地域を外すよう行動しはじめる。
新たな勢力争い・派閥争いはこうして始まっていく。
それを抜きにしてもだ。
この問題の解決のために首脳部は誰もが頭をひねる事になる。
犠牲はやむなしにしても、それが最も少なくなるように。
被害が最低限・最小限で済むように。
何か良い方法はないかと考えていく。




