205回 新たに領地として与えられたが、維持と管理を押しつけられただけではないだろうか 4
「今までやってきた通りか」
「出来れば今まで以上の規模でやりたい」
邪神官の言葉をユキヒコは上方修正する。
基本的にやる事は今までと変わらない。
それは確かである。
ただ、規模が今で以上になるだけだ。
それが一番大きな違いではある。
「とにかく数だ。
数が必要だ。
何千とかじゃない。
何万、出来れば何十万と集めてほしい」
「分かった。
掛け合ってみよう」
頷きながら邪神官は、確実にこの要望は通るだろうと思っていた。
犯罪者もそうだが、あぶれてるゴブリンも社会問題になっている。
それらへの対策があるなら、上層部は喜んで賛成するだろう。
「あと、こっちの出した指示通りに出来たら、ご褒美も出すって伝えておいて」
「どんなものをだ?」
「聖女の皆さんさ、もちろん」
聞くまでもない事である。
略奪以外の楽しみがなければ、制御は出来ない。
もとよりそれほど上手く操れるとは思ってない。
指揮官が足りないし、指示もそれほど細かく出せないからだ。
それでも最低限の指示は聞いてもらわねばならない。
そのためにも見返りは必要だった。
「それはいいんだが、ゴブリンに何を指示するつもりだ?」
「女だけは生かして捕まえてくるようにってね」
今後増えるであろう聖女の需要を考えれば、候補者は多い方が良い。
その確保の為にも、ゴブリンには壊すことなく女を確保してもらわねばならなかった。
「男はいいのか?」
「使い物にならなくしてくれるならそれでいい」
それ以上の要求はない。
「言わなくてもやるだろうけど」
「確かに」
ゴブリンの残虐さは二人も理解している。
言われなくても女以外には悲惨な事をするだろう。
それで十分だった。
「それで見込みのありそうなのは登用していこう」
人材確保の手段としても、ゲリラ活動と略奪を用いるつもりだった。
「実際にどこまで出来るかはやらせてみないと分からないし」
「だが、登用するつもりなら、ある程度訓練をした方がいいんじゃないのか?」
「まあ、それはね。
最低限の事は教えてやった方がいいのかな」
人材確保が目的ならそうした方がいいだろう。
教えられなくても自分で気づいて考えていく者もいるだろうけど。
そうでない者の方が圧倒的に多いのは確かだ。
それに、教えて学ぶ事の方が成長しやすい。
ある程度基本的なことをおぼえていた方が成功の可能性はあがる。
特に女を生かして連れてくる事は。
「下手したらその場でこわしかねん」
それはなるべく避けたいものだった。
「それならある程度の訓練はしよう。
その段階で駄目な奴ははじければはじきたい」
「分かった」
少しずつやるべき事が決まっていく。
「何にしても三年。
三年はどうにかしてもたせたい」
それだけの期間はどうしても敵の侵攻を防いでおきたかった。
「長いな」
「ああ。
かなり辛いと思う。
でも、どうにかして三年は時間がほしい」
そう言うのにも理由がある。
「ゴブリンの数を増やすためにも」
現在、聖女の働きにより、大量のゴブリンが妊娠・出産している。
寿命が二十年から三十年程度と言われるゴブリン。
その短命さにみあうように、妊娠期間と成人までの時間は短い。
妊娠はおおよそ50日から60日。
だいたい二ヶ月とみておけば良い。
成人と見なされるまでには、誕生からおよそ三年ほどが必要である。
このため、どうしても三年は敵の侵攻を食い止めたかった。
ゴブリン兵を少しでも多く確保するために。
徴募でもゴブリンは確保する。
それはもちろんなのだが、それとは別に自前である程度の兵力も揃えておきたかった。
何でも他人に頼ると、自主性を失う事になる。
全ては無理でも、それなりに自給自足出来た方がよい。
「一人あたり年間4人は生むとして。
三年もすれば10万は確保出来る」
現状から試算するとそれくらいにはなる。
それだけの数がいれば、今後の戦闘がやりやすくなる。
「そのためにも三年だ」
大変な苦労になるだろう。
それだけの期間、敵を食い止めるのは。
しかしやらねばならない。
そうでなければ、自立した行動などおぼつかない。
「しかし、まるで牧場だな」
出産から育成まで管理する。
それは決して人間的なものとは言えない。
家畜の扱いに等しいものがある。
あるいはそれにすら及ばないかもしれない。
「どちらかって言うと、工場かもな」
道具や機械としてみている。
そういう意味である。
「確かに」
否定出来ない実態を思い返し、邪神官はため息を吐いた。




